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[2008/01/16] 米CAFCが故意侵害認定要件を厳格化 Seagate判決が示す故意侵害の認定基準と日本企業の対策(1) 2007年8月20日,米連邦巡回控訴裁判所(CAFC)が特許権侵害における,故意侵害認定要件を厳格化する判断を示した(Seagate判決,関連資料1)。これにより,今後は故意侵害の認定が厳しくなる点は明確になった。しかし今回の判決では,どの程度厳しくなるのかは示されていない。故意侵害と認定するためには,従来の「『Negligence(過失)』では不十分であり,『Obvious Recklessness(客観的な無謀性)』が必要である」ことを示したに過ぎない。米国内でも「新しい認定基準については今後の判決を見守る必要がある」との指摘が出ている(関連資料2,3,4)。このような状況を受け米国知財コンサルタントとして多くの鑑定業務を行ってきたDavid G. Posz氏(特許弁護士,Posz Law Group代表パートナ)と,所属スタッフで米国知財実務の実践と研究を行っている吉田 哲氏が,今回の判決に示された「Recklessness(無謀性)」の考え方と,今後の日本企業の対策について解説する。連載1回目の今回は,故意侵害認定の程度について解説する。 (日経BP知財Awareness) 故意侵害認定の程度 Seagate判決では,3倍賠償注1)の対象となる故意侵害の認定基準として,被告の行為が「Negligence(過失)」程度では不十分であり,「Recklessness(無謀)」といえる程度の行為であることを示した。このNegligence,Recklessnessとは,いずれも特許の専門用語ではなく,不法行為法(Tort Law)などで用いる法律用語である。辞書を繰ればNegligenceは「怠慢,不注意,過失」,Recklessnessは「無茶,無謀」との定義を知ることはできる。しかし,それを特許侵害の行為と結び付けて考えることは必ずしも容易とはいえないだろう。特に,日本人にとって馴染みのない法律用語について,その言葉の程度を理解することは難しい。 そこで,NegligenceとRecklessnessの程度を理解するために,この2つに「Intention(故意)」を加えた3つの基準を紹介する(表1)。表1の左欄には加害者の認識の程度,中央の欄には自動車事故を例にした具体的な行為,右欄にはそれぞれに該当すると考えられる特許の侵害行為を設定した。 表1:認識の程度とその行為との関係注2)
交通事故の例から,自動車事故の結果が同じでも,運転者の認識の程度に大きな相違があることは理解してもらえるだろう。以下,自動車事故と特許侵害の例を組み合わせながらそれぞれを解説する。 (1)Negligence(過失) Negligenceとは,自動車事故であれば整備不良により事故を起こしてしまった場合が該当する。これを特許侵害で考えると,特許調査を行ったにも関わらず,調査もれにより対象となる特許を見つけられなかった場合や,クレーム解釈を誤ったケースが該当すると考える。一例としては,「文言侵害はなし,権利の拡大解釈の可能性もなし」と判断したにも関わらず,裁判所が均等論に基づいて特許権の権利範囲を拡大解釈した結果,侵害行為が認められた場合である。均等論に基づく正確な権利解釈は,米国の特許訴訟弁護士であっても容易ではなく,その解釈を誤ったからといって直ちにRecklessと判断されることは少ないであろう。むしろ,少なくとも他社特許を分析し,侵害なしとの判断のもとで実施を継続していたという事実は,誠実な企業(Reasonable Company)として好意的に判断される可能性が高いと考える。 (2)Recklessness(無謀) Reckless Drivingの典型例として米国で紹介されるのは飲酒運転とスピード違反(暴走行為)であり,その悪質な程度が理解できるだろう。飲酒運転の程度を特許侵害に置き換えて考えることは容易ではないものの,例示するならば「侵害の可能性があるとするような意見を無視した場合」,「非侵害であると結論付ける証拠が何も存在しない場合」,「他社特許の分析後に,その技術に近付く方向の技術改良がなされた場合」などが該当するものと考える。 (3)Intention(故意) Intentionの程度としては,自動車事故を例にすれば,意図的に人を狙った行為である。特許侵害であれば,海賊行為とよばれるように他社特許(製品)を分析し,それと同じ構造の製品を販売する行為が該当するものと考える。本来,故意侵害とは,Intentioalな侵害行為に適用されるべきである。しかし,被告が自認しなければ故意の立証は極めて困難であることから,これまでの裁判所は侵害行為に至った状況証拠から故意侵害と認定して高額の賠償責任を課してきた。特に,1983年のUnderwater Device判決(CAFC: September 23, 1983, 717F. 2d 1380) 以降,他社特許の分析時において米国弁護士による鑑定なしに実施行為を継続することは,故意侵害と認定されかねないとの認識が広まっていた。しかし,今回の判決では,その行き過ぎた認定基準を改めるべき点が明確に示されている。 Seagate判決の社会的背景 今回の故意侵害の基準変更の背景には,行き過ぎた特許保護に対する米国社会の批判があると考える。米国連邦取引委員会(Federal Trade Commission)が作成した特許制度に関する報告書「To Promote Innovation」(関連資料7)は,3倍賠償を避けるためにあえて他社特許を調査・分析しないといった実例を紹介しており,現行の3倍賠償制度の弊害を指摘している。また,産業界の代表で構成された委員会(Council on Competitive)による報告書「INNOVATE AMERICA」(関連資料8)」は,不法行為の訴訟にかかる費用をGDPの2%から1%に減らすことが米国の競争力強化に必要であると報告する。 加えて,CAFCにおけるKnorr-Bremse判決(2004)では,被告が鑑定を提出しない場合や鑑定を準備していなかった場合も,そのことだけで故意侵害を認めることの不具合を指摘している。今回のSeagate判決は,まさにKnorr-Bremse判決と同様,故意侵害の認定基準を厳格化する方向で一致する。なお,近年の米国連邦最高裁判所による判決からも,特許権の効力を弱める方向が示されている。例として,KSR判決では従来よりも進歩性の基準を高める方向を明確にした(関連資料9)。eBay判決注3)では特許侵害であったとしても必ずしも差止請求を認める必要はないと判断した。 これらの社会的背景を考慮すると,今回Seagate判決が示した故意侵害の認定基準の厳格化は米国社会の要望に沿うものであり,その流れは今後も継続すると考える。また,その基準も相当高まるものと推測する。 まとめ 飲酒運転を例にしたように,Recklessと認められる特許権侵害は極めて悪質な行為であり,特許権者がそれを立証することは極めて困難と考える。米国の特許訴訟において被告となることの多い日本企業にとって,この判決により他社特許の分析業務が容易となることは間違いない。特に,故意侵害(3倍賠償)を回避するためだけの観点であれば,米国弁護士による鑑定の必要性は極めて小さくなったといえる。 今回の説明が故意侵害の認定基準を理解するうえで役立つことを祈っている。次回は,Seagate判決を踏まえた日本企業の米国特許の分析業務の対策を紹介する。 吉田 哲,デイビッド・G・ポウズ
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