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米国特許法の改正動向と実務ポイントの検討(上) 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究調査センター 助教授 吉田 哲氏 [2005/12/14] 米国において特許法の改正法案が2005年6月に連邦下院議会に提出されて以来,筆者はその内容について様々な方面から質問されることが増えた。質問の多くは,先願主義への移行の可能性や付与後異議申し立て制度の導入についてである(関連記事)。 しかし今回の改正法案には,大きな注目は集めていないが米国内でビジネスを進める日本企業が注意すべきポイントがいくつか存在する。その中でも特に重要と思われる「先使用権(米国特許法§273)」の対象拡大と権利強化の方向性を検討する。 現行の米国特許法における先使用権の位置付け 先使用権は,一般に,特許権を侵害したと訴えられた被告に対し,訴えへの対抗的な権利として認められる。特許訴訟において先使用権が認められれば,訴訟の対象となっている発明あるいは特許権の技術的範囲に抵触していても,原告の特許権に対抗すること,つまり,非侵害と認定される。日本の特許法においては第79条で先使用権を定めている。先使用権は,第三者へのライセンスや自由譲渡が認められていない。この点を含め,米国と日本におけるそれぞれの先使用権は,近似した特徴を有している。 先使用権は,「特許権の取得者よりも先に発明を完成したにもかかわらず,特許を出願しなかった者や出願が遅れた者を保護するための制度」であり,言い換えれば,先願主義の弊害を是正する制度である。この点において今回の先使用権についての議論は,今後先願主義への移行を企図する米国にとって必要不可欠な調整的な制度と位置付けることができる。 先発明主義を採用してきた米国は,先使用権を長く認めていなかった。しかし,ビジネスの方法も特許権の保護対象になり得る,とされた判決後(State Street Bank & Trust v. Signature Financial Group, 149 F.3d 1368, Fed.Cir.1998)に,技術を営業秘密として保護する者を特許権者と公平に扱う観点から,American Inventors Protection Act of 1999の中で,初めて先使用権が採用された(Janice Mueller, An Introduction to Patent Law, ASPEN, at pages 273-275)。 現行法上,先使用権は,他者の特許出願の1年前に発明を「完成させ(reduced to practice)」,その特許の出願時には,発明を「商業的に用いている(commercially used)」者に認めている。ただし,先使用権が認められる発明は,「ビジネスを実施するための方法(a method of doing or conducting business)」に限られる。その権利はライセンスや自由な譲渡は認められず,事業の移転に伴う場合など制限的な移転だけが認められる。加えて,発明を善意で実施していること(発明者からのアイデアの盗用でないこと)を要件とする。 改正法案における先使用権の位置付け 2005年9月時点の米国特許法の改正法案は,具体的な修正項目として主に以下の3点を提起している。 第1は,先使用権の対象に関する修正である。ビジネス方法に関する制限が削除され,全ての技術分野を先使用権の対象に含んでいる。 第2は,先使用の判断時期に関する修正である。従来の「出願1年前に発明を完成していること」という要件が削除され,判断時期は「出願時(effective filing date)」に統一されている。 第3は,先使用権を認める実施の内容に関する修正である。対象となる発明を実施している場合に加え,「実質的な準備(substantial preparations)」をしている場合においても,先使用権が認められる。 表1:米国特許法における現行法と改正法案の先使用権の位置付け
(次回へ続く)
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