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日本企業の米国特許戦略に影響 米国特許法の改正動向と実務ポイントの検討(下) 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究調査センター 助教授 吉田 哲氏 [2005/12/19] 営業秘密によるブラック・ボックス化戦略で先使用権の主張は重要 米国は,今回の特許制度改革に伴い,諸外国に対してグレース・ピリオド(grace period:猶予期間)の導入を求めるとの見方がある。つまり,改革の実施は,グレース・ピリオドの世界的な容認を前提にするという見解である。また,間接的な要素としては,米国連邦議会は先の「カトリーナ台風」による被害者の救済,あるいは予算の再編成など優先すべき問題を多数抱えており,これらに比べると特許法改正の検討は優先順位が低い。上院議員であるHatch氏は,「今回の特許制度改革が具体的に動き出すまでには,数年間が必要である」との見解を示している(関連記事)。 仮に先使用権に関する制度改定が成立した後も,米国における特許侵害訴訟において被告側の先使用権の主張が認められる場合は,限定的だと思われる。また企業の特許戦略において,先使用権の存在を前提とし,すべての技術を営業秘密として保護するような事業展開はリスクが高く,賢明な戦略とは思えない。しかし,すべての技術分野において特許が最適な保護手段でないことも事実である。 日本では,液晶パネルや半導体メモリーなどの分野において企業が自国内に主要工場を建設する理由の1つは,技術のブラック・ボックス化,つまり発明を,特許だけではなく営業秘密として保護する戦略を積極的に採用しているためと指摘されているが,こうした傾向は米国での特許戦略においても同様である。今後,技術に適合した保護形態を選択する知的財産戦略を採用する企業にとっては,今回の米国での先使用権の拡大は利用価値が高いものと考える。さらに,訴訟に至る以前の特許権者との交渉においても,和解以外の選択肢がない状況よりも,「いざとなれば裁判で先使用権を主張して争う」との姿勢を示したり,それを支持する十分な内部資料を準備したりすることは,交渉を有利に進める上で極めて重要である。交渉学でいわれるように,代替案の存在は,「交渉者の優位性(leverage)を高め,交渉を有利に導く重要な要素になる」(Roy L. Lewicki, Essentials of Negotiation, McGraw Hill, at page 147-178)。 日本企業も侵害訴訟時の先使用権の活用策を検討すべき 以上の通り,現行の米国特許法は制約が多いため,侵害訴訟における被告側の防御策としての実効性に疑問があった。今回の改正法案では,条文上,こうした要件が削除・緩和されており,成立後は先使用権の重要性が相対的に高まるだろう。米国内での特許侵害訴訟において被告側に立たされる場面が多い日本企業にとっては,改正後の先使用権は係争時の防御策の1つとして有効に活用できるだろう。 従来,米国における日本企業の特許戦略では,クロスライセンスが主な戦術であり,特許に関する米国企業との交渉において苦戦を強いられる傾向にあった。先使用権の対象の拡大は,特許侵害訴訟の被告側に新しい防御手段を提供するといえるだろう。また、自社の新技術を営業秘密として保護する場合にも重要な役割を担うものと考える。特許法改正の動向においては,この点にも注目して欲しい。 以上に加えて,先使用権の対象が拡大する際には,「発明の実施をどのように証明するか」,「要求される実施の程度はどれくらいか」といった,被告側に要求される立証責任の範囲が新たな論点になるだろう。 営業秘密に関しては現状でも人材の流動化に伴う深刻なリスクが存在するが,今回の制度改正自体が新たなリスク要因につながる恐れがある。例えば,米国の生産拠点における設計図や,米国営業所に関係する事業計画書など,将来的に訴訟時の証拠物件になりうる情報の管理や文書化は,今から徹底しておいてよいだろう。もし,現時点において内部統制が不十分だと思われる場合は,将来を見すえた情報の共有化などから少しずつ取り組むべきである。それは,技術経営(management of technology)の観点からも効果的である。 (前回の記事)
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