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外務省が知的財産室を新設
知的財産関連の条約整備などに注力
[2008/04/01]


 外務省が経済局国際貿易課内に「知的財産室」を2008年4月1日に新設した。その背景の1つには,増加する工業製品の模倣品や著作物の海賊版などの存在がある。世界税関機構(World Customs Organization)の調査によると全世界での模倣品などの取引額は年間5,000万ユーロ(約80兆円)に及んでいる。日本企業も海外での模倣品による被害を受ける状況にあり,日本政府は知的財産の保護と権利行使に関して,各国との調整を図っている。同室の主な活動は,外交の側面から,関連する条約の制定や改正などを世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization:WIPO)などの国際機関へ働きかけたり,関係国との議論をリードすることによって,日本企業の海外での業務展開を支援することである。外務省が同室を設置した詳細な理由と意義,具体的な活動内容について同室長の相馬弘尚氏に聞いた。
(聞き手は品田 茂=日経BP知財Awareness編集)


知的財産に関する条約などに関して海外と交渉
 外務省では,知的財産戦略本部の「知的財産推進計画2004」を受け,2004年7月に経済局国際貿易課に「知的財産権侵害対策室」を設置,2008年4月に「知的財産室」へと移行した。模倣品に対する活動,海外で事業展開する日本企業のサポート,WIPOや世界貿易機関(World Trade Organization:WTO)のTRIPS(Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights)理事会で議論している知的財産権に関わる事項に加え,権利化はされてはいないが,各国に存在する植物や動物などで社会的に価値のあるものと認められる“遺伝資源”や原住民が伝統的に継承してきた知識などの“伝統的知識”,伝統舞踊や伝統陶芸などの民族文化財を指す“フォークロア(注1)”などの幅広い知的財産問題などに対応するためである。
 知的財産室の主な業務は(1)国際機関での協議への対応および国際的な制度の構築,(2)知的財産に関する各国間協議の際の担当部署へのアドバイス,(3)日本企業支援および海外市場での権利侵害への対応,の3点である。

WTOなどの国際機関や国家間での知的財産に関する交渉・調整業務を所管
 (1)に関しては,WTOやWIPOなどの国際機関で各国と法制度などの調和を図り,知的財産の保護と権利行使の強化を図るように活動している。
  この一環として「模倣品・海賊版拡散防止条約(Anti-Counterfeiting Trade Agreement:ACTA)(仮称)」(注2)の早期締結を目指して活動している。本条約は,模倣品(商標権侵害品)と海賊版(著作権侵害品)に焦点を当てているのが特徴である。例えば,模倣品の流通では,インターネットなどの新たな経路が生まれてきた。TRIPS協定は貿易における知的財産権保護の基準と権利行使について包括的に規定しているが,必要最低限の事項を規定するにとどまっているため,これらの新しい問題に対しての実効性(権利行使など)が疑問視されるようになってきた。
  そこで日本政府は,知的財産保護と権利行使に関する新たな条約の確立が必須であると判断,まず欧米各国に働きかけ,その後,米国がこれに積極的に呼応してきたことから,日米の共同イニシアチブとして議論を開始した。その後,議論の継続に伴い,知的財産の保護に熱心な国々に参加を呼びかけ意見交換を行った。2007年10月には本条約の実現に向けた本格的な協議の開始を日米欧などが報道発表した。その後,2007年12月,2008年1月, 3月と非公式会合を開催して条約の具体的内容を議論している。本会合では,国際協力の推進,知的財産権の執行と強化,法的規律の形成,の3点を主要な検討事項としている()。
  このほか,WTO のTRIPS理事会では,ワインや蒸留酒などの産地の地理的表示(geographical indication: GI)の対象範囲の拡大や,「多国間通報登録制度」の創設ついての交渉などを担当している。また,現在の事務局長の任期が間もなく満了するWIPOでは,日本人の次期事務局長候補に対する各国の支持を取り付ける活動も行っている。これはWIPOで日本の存在感を高めるために重要な業務である。

(図)

国家間の知的財産問題や対話には担当部署に知的財産室がアドバイス
 (2)に関しては,知的財産問題を含む国家間の問題や対話は,外務省内の各担当部署(米国の経済問題であれば北米局北米第二課など)が担当する。各担当部署は知的財産問題に関して日本としてどの様な対応をすべきかを知的財産室に問い合わせ,協議を行う。これに対して知的財産室は専門の視点から回答を出す。  日米間では,特許審査ハイウェイ,特許出願様式の統一などの早期実現に向けて活動をしている。日本とEUの間では,2003年の定期首脳協議での合意に基づいて年に1度,課長級での知的財産権や模倣品なでについての意見交換をしている。日中間では,2002年の日中首脳会議によって設置した「日中経済パートナーシップ協議」内で知的財産問題を解決する各種施策を議論している。

在外公館の知的財産担当官が日本企業をサポート
 (3)に関しては,外務省は,2005年3月から在外公館の館員を1名ないし2名「知的財産担当官」に任命している。知的財産担当官は,現地で模倣品などの知的財産問題に関する実務を担当している。知的財産室では,知的財産担当官のために「知的財産権侵害対策マニュアル」を作成した。中国での開催を皮切りに,最近では2007年11月にタイのバンコクでASEAN各国およびインドの知的財産担当官を集めて会議を開催し,知識や情報を共有して能力の向上を図った。
 さらに,在外公館ではJETRO(日本貿易振興機構)や民間企業と協力して問題の解決に当たっている。例えば中国の場合,JETRO(関連記事)が事務局を務める「IPG」(注3)において話題になった問題などに対して,在外公館長が中国の中央政府や地方政府に対して改善依頼などを働きかける場合がある。館長による政府への働きかけは,中国側もないがしろにできないために,公正な裁判や迅速な取り締まりなど誠実な対応に結びつくことが多い。

(注1)フォークロアとは,古くから伝わる「民間伝承」や「民族文化財」などである。社会の構成員が共有する文化的資産である伝承の文化表現を意味する。具体的には,民族特有の絵画,彫刻,モザイクなどの有形なもののほか,歌,音楽,踊りなどの無形のものも含まれる。

(注2)「模倣品・海賊版拡散防止条約(Anti-Counterfeiting Trade Agreement:ACTA)」(仮称)とは,日本が知的財産の保護に関心の高い国々に呼びかけ,模倣品や海賊版の拡散を防止するために知的財産権の執行を強化する目的で締結を目指す国際条約である。2005年7月に開催されたG8グレンイーグルズ・サミットにて当時の小泉首相が提唱した。

(注3)IPGとは,中国北京や上海等で知的財産権に関する問題に対処するために作られた会である。ビジネスを展開する日系企業の知的財産権分野におけるさまざまな問題について共有・検討する。




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