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ネット時代に対応した著作権法改正
“デジタル・コンテンツの流通促進”の始まりか


[2009/11/18]

 この6月に著作権法の一部を改正する法律が公布,一部を除いて2010年1月から施行の予定である。文化庁は,“デジタル・コンテンツの流通を促進する”ことが今回の狙いの一つとしているが実態はどうなのか,改正の背景やそれが与える影響について,西村あさひ法律事務所 弁護士の櫻井由章氏に聞いた。

(聞き手は,テクノアソシエーツ 朝倉 博史)


――今回の著作権法改正(平成21年著作権法改正)の概要を教えてください。

 著作権法をインターネットの時代に対応したものにしていこうとするための一つとして立案されたものとされています。今回の改正は三つの柱から成ります。(1)インターネット等を活用した著作物利用の円滑化を図るための措置,(2)違法な著作物の流通を抑止するための措置,(3)障害者の情報利用の機会を確保するための措置,です。  著作権はインターネット,デジタル化技術がなかった時代に作られたものです。立法のときに想定していなかったコンテンツの流通・利用形態が出てきたことで,さまざまな不具合が生じてきています。これまでにも,その変化に相当遅れながら個別の要請の一部に対応して著作権法をつぎはぎのように少しずつ改正してきました。今回も部分的な改正ではありますが,若干の改善とはいえるかもしれません。

――現行法では,どのような不具合があったのでしょうか。
西村あさひ法律事務所 弁護士 櫻井 由章氏
西村あさひ法律事務所
弁護士 櫻井 由章氏


 現行法では,著作権法30条以下の個別規定にあたらなければ,権利者の許諾を得ない限り著作権侵害となるとする考え方が通説的なものになっています。例えば,「Google」や「Yahoo!」といった情報検索サービスを実施しようと思っても,情報コンテンツを収集・整理し,提供することが複製等にあたり,これを適法とする個別規定がなく著作権法に抵触するとする考えがあったことから日本では国内にサーバーを設置する事業者が現れませんでした。日本で「Google」や「Yahoo!」をしのぐ検索エンジンが育たなかった一因がここにあったともいえます。これに対して,米国では,権利者の利益を不当に害しない利用であれば許諾を必要としない「フェアユース」が規定されており,事業者は,この考え方に基づいて情報検索サービスを進めています。また,過去に放送されたテレビ番組をオンデマンドで配信するサービスの場合でも,出演者全員の許諾が必要であるとする意見があり,対象者が見つからなかった場合等の取り扱いが厳しいことから,ネット事業は海外に比べて相当に遅れている状況となっています。


――今回の改正でそのような問題が解決するのでしょうか。

 (1)インターネット等を活用した著作物利用の円滑化を図るための措置により,情報検索サービスに必要な行為は,著作権者の許諾を得なくても可能となります。ただし,検索サービスを事業として行なう者に限られます。また,登録したキー・ワードの関連情報を集めるといった情報検索以外のサービスについては,今回の改正の規定からは直接に導かれるものとはなっていません。したがって,問題の解決にはほど遠いのではないかと思います。
 テレビ番組の2次利用では,権利者が所在不明な場合に文化庁長官の裁定を受けて利用できる「裁定制度」に関する改正がありました。現行法ではその対象が放送作家などの著作権者に限られており,番組に出演する俳優等の著作隣接権者は含まれませんでした。今回の改正によって出演者等もその対象となります。さらに,裁定が出るまでに時間がかかっていたことも大きな問題でしたが,改正後は,申請の際に供託金を払えば,裁定結果が出る前でも暫定的な利用が認められるようになりました。ただし,裁定を受けるには権利者を捜索するために相当な努力をしていることが前提となっています。現在までの運用ではこの要件が非常に厳しく解釈されてきたことから,これまでの裁定数は合計で46件と非常に少なく,裁定制度自体があまり機能していません。政令で定められることになったこの要件が現行法と変わらないのであれば,今回の改正による改善はほとんどないことになってしまう心配があります。

――(1)には「国会図書館における所蔵資料の電子化」に関する改正もありますが,これも限定的な話ですね。

 将来に向けた第一歩として,資料を電子化するという意味はあると思います。現行法では損傷・劣化した資料だけが電子化を許されていましたが,改正によって所蔵資料の納本後,すぐに電子化できるようになりました。電子化しインターネットを介してどこからでも閲覧できるようにすれば国会図書館に蓄積された情報が広く社会に行き渡ることになり,社会的利益を増すことになりますが,この点については手当がなされていません。閲覧は国会図書館内に限られるということになっています。


――(2)違法な著作物の流通を抑止するための措置では,権利侵害の範囲を拡大していますね。

 違法なインターネット配信による音楽・映像を違法と知りながらダウンロードすることが,現行では私的利用目的では侵害ではなかったのが,改正ではそれが権利侵害の対象となりました。ただし,罰則はありません。もっとも民事上の差止等の対象にはなりますし,私的目的でも違法であることを明記することで,海賊版を利用することは良くないということを人々に意識させるという効果も考えられないではありません。これについては,私的複製を権利侵害とすることは,行き過ぎではないかという意見もあります。さらに今回の改正では,海賊版を販売するだけでなく広告を行なうことも権利侵害の対象となりました。


――(3)の障害者の情報利用の機会を確保するための措置とは,どのようなものでしょうか。

 障害者の情報格差を解消するため,権利者の許諾を得ずに著作物を利用できる範囲を若干広げました。例えば,録音図書の作成が認められる主体が点字図書館などに限定されていたのが公共図書館等にも拡大し,対象が発達障害や色覚障害者なども含まれるようになります。


――今後,日本の著作権法はどのように進んでいくのでしょうか。

 今のままだとせっかく良いコンテンツが日本にあっても流通せず,そのコンテンツを社会が享受できませんし,権利者への還元もなされません。それでは文化の発展に資することにはならないので,なんとかこの状況を打破しなければなりません。現在,文化庁の審議会では日本版フェアユースの導入について検討していますが,後追い的であることは否めませんし,その規定の仕方も問題となります。これからの日本社会の発展のために,“デジタル・コンテンツの流通促進”を実現するには,もっと抜本的な法改正が必要でしょう。

<関連記事> 
ネット時代に対応したデジタル・コンテンツ流通促進策とは〔2010/01/15〕





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