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社会のG20サミットへの注目に象徴されるとおり,今日は様々な局面で新興国の存在感が増している。特に,BRICsとして並び称されるブラジル,ロシア,インド,及び中国は今後も世界の成長センターとなることが期待されており,世界から注視されている。その中でもロシアは豊富な天然資源と国民の旺盛な消費性向に支えられ,2008年までの10年間は実質GDP成長率平均6.9%の高成長を維持してきた。また,我が国とロシアとの経済関係は近年特に強まりつつあり,日露間の貿易額は過去5年間で4倍以上に増加している(図1)。昨年9月のリーマン・ショックを境として停滞し,2009年は大幅なマイナス成長が予想されるものの,今後も新興国や途上国の発展に伴い,世界のエネルギー需要が中長期的に増大することが想定されており,やがて資源価格の上昇に伴ったロシア経済の復調も期待される。ロシアを始めとした主要新興国で優位に事業展開を図りたい日本企業にとっては,戦略的な知的財産活動が求められる。そのような中,日本国特許庁では,ロシアをはじめブラジル,メキシコ,アルゼンチン,インド,インドネシアの特許庁長官や専門家を一同に集めた大規模な新興国知的財産制度シンポジウムを,12月に初めて開催する。 特許庁総務部国際課課長補佐の大熊靖夫氏に,ロシアの知的財産制度の現状,特許出願動向などについて解説してもらう。
[ロシアの知的財産制度の整備状況] ロシアの知的財産制度は,旧ソ連が崩壊した翌年の1992年に特許法,実用新案法,及び意匠法が制定され,その後1993年にかけて商標法,著作権法等が制定されている。歴史を遡ると,ソ連時代にも知的財産法は存在し,帝政ロシア時代においても1812年に特許法が公布された。なお,ソ連時代の特許法には,国家が発明の独占実施権を有する「発明者証制度」という特異な制度が存在したが,現在のロシア特許法にそのような制度は存在しない。 1992年から1993年に制定されたロシアの知的財産法令は,2002年から2003年にかけて改正がなされ,さらに2008年には民法典第W部(第69章−第77章)への集約を含む改正が行われている。現在,発明や考案の保護は,ロシア特許法(民法典第W部第72章)に規定されている。保護期間は特許が出願から20年,実用新案が10年である点などは我が国と同様であり,特許出願に関して審査請求制度や出願公開制度が存在することも,我が国の制度と共通している。 他方,両国の知的財産法には多くの相違も存在する。例えば,我が国の実用新案権は新規性に加えて一定の進歩性も要求するのに対して,ロシアの実用新案権は進歩性を必要としない。また,ロシアの商標法にも周知商標制度は設けられているが,我が国の周知商標は特段当局への申請などは求めないのに対して,ロシアにおける周知商標はロシア特許庁への申請(及び承認)を要件とする。 このように,ロシアの知的財産制度は基本的な法律は制定されているものの,我が国の制度とは異なる部分が存在しており,また,その運用にも不明な点が散見される。 ロシアにおける現行の知的財産法令については,主な法令はホームページ等で確認できるものの,2008年に改正が行われた関係もあり,下位法令や法令一般の運用実態に関する情報は我々にとって必ずしも十分ではない。しかしながら,日本企業がロシアにおいて特許出願や権利化などを行う際には,可能な限り制度の詳細を把握することが必要となる。 ロシア政府としても近年,知的財産保護に積極的な姿勢も見せている。本年8月には特許法条約に加盟し,同9月には最高商事裁判所が知的財産保護をテーマとした国際シンポジウムを開催しており,我が国からは特許庁幹部が出席した。 [増加する外国からの特許出願] ロシア特許庁への特許出願は緩やかな増加傾向にある(図2)。2001年と比較して2007年の出願件数は約16%増加し,特に非居住者による出願の増加率が高い(約28%)。 我が国からロシアへの特許出願を見ると,世界知的所有権機関(WIPO)統計による出願件数は2001年の約700件※から2007年には904件へ増加している(図3)。これによると,2001年から2007年への出願件数の増加率は25%程度であり,我が国を含めたロシアへの非居住者全体による出願件数の増加率とほぼ同じである。他方,2003年から2007年にかけての我が国から外国への特許出願は年平均7.8%の増加率である。この増加率と我が国からロシアへの出願件数の伸び率を比較すると,ロシアへの出願の伸び率は半分程度となる。 新興国への効果的かつ効率的な特許出願や権利取得,権利行使のためには,より戦略的なグローバル知財ポートフォリオの構築が不可欠である。特にロシアへの特許出願については,成長が見込まれる市場で将来に渡り競争優位を確保するため,中長期的な出願戦略が求められる。 ※ グラフ中における2001年の我が国からの出願件数は357件であるが,本データは非居住者による出願の約半数が国籍不明である点に注意が必要である。不明分の国別内訳の割合が,判明分と同様であると推定すると,2001年の我が国からロシアへの出願件数は約700件となる。
[国際的なネットワークを広げるロシア特許庁] 1991年のソ連崩壊に伴い,翌年にソ連特許庁は解散し,ロシア特許庁が設立された。また,1996年には独立国家共同体諸国の特許出願を受け付ける「ユーラシア特許庁」もモスクワに設立され,ロシアへの特許出願はユーラシア特許庁を通じて行うこともできる。 ロシア特許庁には現在約2700名の職員が在籍しており,我が国特許庁の職員数とほぼ同数である。組織体制を充実させたロシア特許庁は,近年国際的な活動も活発化させている。1997年には国際特許出願(PCT出願)の国際調査機関・国際予備機関となり,2008年からはロシア特許庁の下部組織,知的財産教育機関がWIPO主宰の知財アカデミー・グローバルネットワークに参画するなどしている。また,ロシア特許庁のシモノフ長官は,昨年行われたWIPO事務局長選挙にも立候補した。 アジア太平洋地域に目を向けると,ロシアは2012年のAPEC(アジア太平洋経済協力)会合開催国であり,ロシア特許庁も今年7月にシンガポールで開催されたAPEC知的財産専門家会合に多数の職員を派遣するなど,APECへの関与を強めつつある。 また,ロシア特許庁は二国間関係の活動も活発化させている。今年5月には我が国特許庁との間で特許審査の国際的なワークシェアを進める特許審査ハイウェイ(PPH)を試行開始し,同11月には韓国特許庁との間でもPPHを開始している。さらに,現在は米国特許商標庁との間でもPPHの実施に向けた検討を行っている。 このように,近年のロシア特許庁は,WIPOやAPECといった多国間協議の場に積極的に参画し,また二国間の協議も精力的に行うなど,国際的なネットワークを広げつつある。我が国特許庁は,ロシア特許庁との間で従来から特許公報の定期交換などを行っているが,昨年からは長官会談や実務者会合などの機会を積極的に設けており,今後も両庁の関係強化を図る予定である。
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