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―――デジタル・コンテンツのインターネット配信の現状について教えてください。
米国では,YouTube,LLCはもとより,NBC Universal と News Corp.が立ち上げた「Hulu」が急成長しています。また,英国では,BBCが動画配信サービス「iplayer」を提供しています。東アジアに目を転じると,中国の優酷網(Youku)や韓国パンドラTVが動画共有サービスを提供するなど存在感を増しつつあります。日本においては,NHKや民放各社が,「NHKオンデマンド」等の動画配信サービスを提供していますが,広がりが進んでいないのが現状です。 テレビ番組のインターネット配信を含めたデジタル・コンテンツの流通を考えた場合,これから世に生み出していくコンテンツの流通をいかに促進していくかに加え,過去に制作されたコンテンツの流通をどのように促していくかも重要になります。このことについては,2007年の経済財政諮問会議においても,有識者議員から「わが国では,貴重なデジタル・コンテンツの多くが利用されずに死蔵されている。(例:過去のTV番組の再放送等が著しく制限)」と指摘されています。 ―――日本において,デジタル・コンテンツのインターネット配信が進展していない原因の一つとして,著作権法の規制が挙げられていますが。 問題を,配信プラットフォームにかかわる点とコンテンツの権利処理にかかわる点の二つに分けて考えることができると思います。 配信プラットフォームにかかわる問題については,著作権の存在という問題があります。日本の著作権法では,米国における「フェア・ユース規定」に相当する著作権の一般制限規定が置かれていません。そのため,著作権法30条以下の個別制限規定に該当しなければ,原則として著作権侵害となると解釈されます。例えば,デジタル・コンテンツの配信プラットフォーム事業者が革新的な利用方法を考えたとしても,デジタル・コンテンツの配信プラットフォームに他者の著作物をアップロードすること等は,複製や公衆送信に該当するおそれがあることから,それが,著作権の制限規定に該当しなければ,著作権を侵害する恐れがあります。日本でインターネット情報検索エンジンの開発が進まなかった要因の一つとして2009年改正前著作権法の下では,検索エンジンにおいて行われる情報の収集,整理・解析,検索結果の提供が複製等に当たり著作権を侵害する恐れがあるという解釈が示されていたことがありました。この点について,2009年改正著作権法において,インターネット情報検索サービスを実施するための複製等の規定により情報検索サービスに必要な行為等は著作権者の許諾を得なくても可能となりましたが,検索エンジンが生まれてから既に15年が経ち,時期遅きに失しているばかりでなく,2009年改正著作権法で手当されていないサービスもあります。 コンテンツ自体にかかわる問題では,個別コンテンツの権利処理の問題があります。デジタル・コンテンツのインターネット配信を行おうとすれば,当該コンテンツにかかわるすべての権利者からそれぞれ利用許諾を得ることが必要となる可能性があります。そもそも,権利者が明確でない場合もあり,権利者が分かっても権利者が所在不明の場合や権利者が死亡するなどしてその相続人の所在が不明の場合もあります。権利者全員の所在が明らかにすることすら必ずしも容易ではないでしょう。また,権利者全員の所在が明らかになった場合でも,その全員から利用の許諾を得られるとは限りません。 ―――著作権法の枠組みの中で,デジタル・コンテンツの流通を促進させるために,どのような制度がありますか。 権利者の所在が不明である場合に,文化庁長官の裁定によって,著作物を利用することができるとする「裁定制度」があります。2009年改正前著作権法では,著作隣接権者が対象となっていなかったり,裁定手続が極めて煩瑣であるといった問題点がありました。2009年改正著作権法では,著作隣接権者が所在不明の場合にも裁定制度を利用したり,裁定申請の際に供託金を供託したりすれば,裁定結果が出る前でも暫定利用を認められるとなっています。 この裁定制度は,従来,ほとんど機能してきませんでした。裁定制度そのものが,円滑に裁定がなされるような仕組みとはなっていなかったのです。例えば,裁定制度の利用にあたっては,著作権者と連絡するための「相当な努力」が求められますが,特に,この「相当な努力」には時間とコストが必要となります。2009年改正著作権法(政令及び告示を含む)によっても,依然として,時間とコストのかかる煩瑣な手続を要求しており,十分な改善とはなっていません。 なお,「登録制度」がありますが,この制度は,譲渡等に限った制度であること等から十分な公示機能を果たしているとは言い難いといえます。 また,映画については,著作者が映画制作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは,著作権が当該映画制作者に帰属するものと規定しています。ただ,あくまで「映画」に限っての権利集中化であるところ,映画の範囲を限定する解釈もあり,映画についても脚本家,作詞家・作曲家はその対象外であることからデジタル・コンテンツの流通促進の観点からすれば十分とは言えないでしょう。 このほか,JASRAC(日本音楽著作権協会)のように,著作権者からの委託によって,著作権を集中的に管理し,利用者に対して利用許諾を与えるという取り組みもあり,このような自主的な取り組みも重要ではありますが,そのようなスキームに参加しないアウトサイダーの存在をどのようにするかいった点等に課題が残ります。 ―――今後,デジタル・コンテンツ流通を促進させるためには,どのような制度的仕組みを取り入れたら良いでしょうか。 まず,特に配信プラットフォームにかかわる問題については,権利者の利益を不当に害しない一定の範囲内で公正な利用を包括的に許容し得る権利制限の一般規定である「フェア・ユース規定」の早期の導入が望まれます。フェア・ユース規定については,文化庁著作権分科会の法制問題小委員会において,「日本版フェア・ユース規定」についての議論が行われているところです。日本における配信プラットフォームの発展のために,これが米国の場合と同じように「柔軟性」を伴った条文として導入されるかどうかが課題となります。 さらに,特にコンテンツ自体にかかわる問題については,少数の権利者の不賛成や所在不明者の存在によって,デジタル・コンテンツの流通や利用が阻害されてしまう事態に陥らぬように,何らかの手当を講じるという方策も考えられます。 このような制度については,コンテンツを利用される側からの反対意見もあります。しかしながら,コンテンツの流通が促進され,権利者に経済的な利益がもたらされることは,再創造のインセンティブにもつながるという考え方もあります。著作物が利用されることによって,文化と産業双方を発展させるという考え方が必要ではないでしょうか。 著作権法は,出版物や絵画といった昔からあるコンテンツの昔からの利用形態を想定してできたものであって,デジタル・コンテンツのインターネット配信など想像すらしていなかったはずです。10年前ですら想定できませんでした。マウス・イヤーとも称されるようにICT(Information Communication Technology)関連の技術進歩は極めて速いものがあります。これまでは,著作権法を少しずつ改正することによって,技術の進化や時代の変化に対応するような試みがなされてきましたが,著作物の流通ということには十分な目配りがなされていない上,技術の進化や時代の変化に対応しきれているとはいえません。著作権法の抜本的な改正や特別法の制定が必要ではないかと思います。
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