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今日の国際社会ではG20の台頭に象徴されるように新興国が存在感を増し,一層のグローバル化,多極化が進んでいる。中でもブラジルはBRICsの一角として着実な経済成長を続けており,世界金融危機の影響も軽微では無かったものの,その成長性への期待は相変わらず大きい。2014年にはサッカー・ワールドカップ,2016年には夏季オリンピックも開催される。近年消費支出も着実に増加し,2003年以降は同国への輸入額も急増している(図1,図2)。こうした有望な成長市場において,今後日本企業が優位に事業を展開するためには,戦略的な知的財産権の取得や活用が不可欠である。特に,新興国において最も深刻な模倣品,海賊版問題に対しては,商標権が強力な手段となる。 特許庁総務部国際課課長補佐の大熊靖夫氏に,ブラジルにおける商標制度の現状や出願動向などについて解説してもらう。
[ブラジルにおける商標制度の状況] ブラジルでは憲法に産業財産権の保護が規定されており,商標については第5条第29項において特許及び実用新案と共に記されている。また,法律では,商標は産業財産法において特許,実用新案,意匠,地理的表示及び不正競争とともに規定されている。 ブラジルの商標制度は審査制度を有しており,存続期間も登録から10年毎の更新制であるなど,その基本骨格には我が国を含む先進国と共通する点が多い。 かつては登録までに4年から6年を要した商標出願の審査も,現在は出願から15ヶ月以内の審査着手,18ヶ月以内の審査終了という目標を掲げている。このように積極的な期間管理の目標設定は,将来的なマドリッド・プロトコルへの加盟に向けた助走と言える。 また,ブラジル産業財産庁は,商標制度の商品分類を2000年に独自分類から国際分類へ移行している。既登録分の商標に対する国際分類への書き換え作業は終えてないが,このような分類制度の変更も,ブラジル商標制度の国際化に向けた動きのひとつである。 他方,ブラジルにおける商標出願は一出願一区分であり,一出願多区分制の我が国とは異なっている。しかしながら,我が国も商標法条約への加盟に併せて平成8年法律改正時に一出願一区分から一出願多区分制に移行した経緯があり,今後ブラジルにおいても条約加盟などに伴う商標制度の更なる整備が期待される。 ブラジルの商標制度は現在国際化の途上にある。ブラジルにおいて商標の出願や権利化,その活用を図る際には,このような同国の状況を理解し,その運用実態を十分に把握することが求められる。 [漸増する商標出願] ブラジル産業財産庁への商標出願件数は,従来横ばいだったものが2006年以降漸増傾向にある(図3)。このような出願件数の漸増は,ブラジルにおける経済の発展や知的財産権制度の普及に伴うものと考えられるが,特許出願件数の増加率と比べると,その程度は緩やかである。 出願件数の内訳に目を向けると,商標出願全体に占める非居住者による出願の割合は2001年が16%,2008年が18%程度となっている。特許出願の場合とは対照的に,商標出願では居住者による出願が多数を占める。 なお,ブラジルにおける商標の出願件数は,我が国の出願件数(2008年:約12万件)とほぼ同数であるが,ブラジルの商標出願は前述のとおり一出願一区分である点に注意が求められる。すなわち,我が国では一件の出願で済む商標について,ブラジルでは権利化を図る商品や役務の区分数だけ出願する必要がある。
ブラジルにおける非居住者による商標出願は,2001年と比較して2008年は3割強増加している(図4)。この増加傾向は,商標出願全体の同期間における増加率(約18%)を大きく上回っており,非居住者による出願が,ブラジルにおける商標出願の増加に大きく寄与していることがわかる。 非居住者による商標出願の国籍別傾向を見ると,2001年から2008年にかけて我が国はシェアをやや伸ばしており(3.9%→4.4%),ドイツ,スイスもシェアを伸ばしている。他方で米国はシェアを落としている。 中国,韓国は,件数こそ少ないものの,大幅に出願シェアを伸ばしている(中国:0.4%→2.3%,韓国:0.5%→1.1%)。中韓両国は特許出願においてもシェアを大きく伸ばしており,激しい競合関係に晒されている我が国は,知財分野における両国の動向も注視する必要がある。
[体制整備を進めるブラジル産業財産庁] ブラジル産業財産庁は1970年に開発商工省の下部組織として設立された連邦政府機関である。同庁は設立から40年を迎えるが,近年は特に組織体制の整備を精力的に進めている。 ブラジル産業財産庁における2009年の組織体制を5年前(2004年)と比較すると,職員数は570名から1050名へほぼ倍増し,商標審査官に至っては35名から95名へと約3倍になっている。同庁はこのような審査官の大幅な増員を通じて,商標出願についても,特許出願と同じく滞貨の解消を図っている。 同庁は電子化,情報化における体制の整備も進めている。商標出願にはすでに電子出願システムが導入されており,特許についても2011年7月の電子出願システム導入を予定している。また,インターネットを通じた情報発信にも力を入れており,現在ポルトガル語版のみである同庁ウェブサイトも,2011年7月には英語版サイトのリリースが予定されている。 ブラジルを含めた新興国への出願や権利行使に際して,出願人や権利者にはグローバルかつ戦略的な知財ポートフォリオの構築が求められる。そのようなポートフォリオ構築への一助とすべく,日本の特許庁は新興国を含む諸外国の知的財産権制度に関する情報の発信を強化している。 今年度,特許庁は産業財産権制度各国比較調査研究等事業「ロシア,中南米及び中東における知的財産権制度及びその運用状況に関する調査研究」を実施しており,本年3月には本調査研究に関連する国際知的財産セミナー「湾岸諸国の知財制度及びブラジルの商標制度」も予定されている。 同セミナーでは,ブラジル産業財産庁のSilvia Rodrigues de Freitas商標審査官がブラジルの商標制度について講演する。
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