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日本独自の"戦略的標準化活動"を進める時が来た
内閣官房知的財産戦略推進事務局 次長 藤田昌宏氏に聞く(下)
[2006/12/22]

藤田昌宏氏  日本政府の知的財産戦略本部(本部長:内閣総理大臣)は,「国際標準総合戦略」を取りまとめ,2006年12月6日に公表した。近年は世界的に情報技術(IT),デジタル情報通信産業を中心に,「技術標準」,「国際標準化」の獲得がグローバルな市場における優位性の確保に不可欠な要素として注目されており,日本の国際競争力を維持・強化するための国家戦略として「国際標準総合戦略」が策定された。同戦略の策定を主導した内閣官房,知的財産戦略推進事務局次長の藤田昌宏氏に,(1)国際標準化を重視すべき世界的な背景,(2)国際標準総合戦略の全容,(3)「知的財産立国」政策としての意義,を聞く。
(聞き手は河井貴之=日経BP知財Awareness編集)


著書「国際標準が日本を包囲する」(日本経済新聞社,1998年)などを通じ,いち早く国際標準の重要性を訴えてきた「先駆者」として,現在の状況をどう見るか。


藤田氏が執筆した「国際標準が日本を包囲する」(日本経済新聞社,1998年)
 1990年代後半,当時の通商産業省において初代の工業技術院標準部国際規格課長に就いた。標準化活動を巡る世界的な動きと「標準小国」日本の現状を目の当たりにし,警鐘を鳴らす意味を込め執筆した。
 従来,日本企業は,国際標準作りは欧米諸国に委ね,でき上がった標準にうまく適応して良質の製品を作り出していくことを「勝ちパターン」だと考えてきた。確かに欧米へのキャッチアップを目指している時代は,それが手っ取り早い戦術だった。しかし,技術革新(イノベーション)がこれだけのスピードで進む時代になると,他者が作った標準に後から合わせるという手法では,市場への参入に決定的に遅れることになりかねない。また,自社の標準が国際標準になり損なうと,それまで積み上げてきた研究開発活動の成果が無に帰するおそれがある。
 標準化活動は,ある意味ではスポーツ界のルール変更の「流れ」に類似している。柔道,水泳,スキーのジャンプ競技など日本が「強い」競技分野では海外主導のルール改定が実施された結果,日本の競争力が低下してしまった,という構図だ。「それならば,そうしたルール作りから日本は積極的に参画するべきだ」という強い思いがあった。
 しかし,率直に述べると,その当時の日本の産業界では「国際標準化」への反応は鈍く,「日本人は昔から"舶来品"が好きなのだ」とか「自己主張や英語など語学が苦手な日本人に国際標準化活動をやれというのは無理難題だ」と述べた企業経営者も実際にいた。
 当時は,「標準化」という概念を品質管理の一部と理解する傾向も強かった。あえていえば,そうした品質管理の分野でさえ,「"世界一"といわれる品質管理を実施してきた日本が今さら世界から何を学ぶというのか」といった見方が大勢を占めていた。これは後年にISO9000シリーズで日本企業が苦労することになる「伏線」でもある。一方で欧米諸国はすでに「戦略的標準化(strategic standardization)」を産業政策上のキーワードの1つに掲げるなど,着々と「包囲」を進めていたのである。
 今回の「国際標準総合戦略」策定は,当時から10年間近くを要したものの,日本の取り組みにおいて1つの大きな節目になると感じる。近年はサービスやマネジメントの規格化・標準化の増加,社会的責任(CSR)において標準化が一種の「要件」になっているなど,事業環境を巡る新しい潮流や変化もあり,国際標準の重要性はますます高まっている。

知的財産活動と標準化活動の関連性についてはこの間にどのような変化があったか。


 1990年代は両者の関係を別のものと捉え,「車の両輪」にたとえる機会が多かった。当時と現在の大きな違いは,知的財産権を含む標準化の急増などを通じて密接化が進んだ結果,「両輪」というよりも,「一体化」が進んでいると感じる。
 ただ,知的財産活動と標準化活動の間で起こりうる課題の数々は,比較的新しい課題であり,未だ残された課題である。例えば,パテント・プールに関する制度整備,あるいは「ホールド・アップ問題」のようなリスク要因の排除は,今後の取り組みが急務であると思う。

標準化活動全般を見て,現在の日本が世界を先導している分野にはどのようなものがあるのか。


 代表的な成功事例としては,1990年代後半のデジタル・カメラのファイル・フォーマット形式(design rule for camera file system:DCF)がある。日本企業が策定した技術方式が国際標準になったことが,2006年現在,デジタル・カメラの世界市場において日本が80%以上のシェア(市場占有率)を確保していることに大きく貢献したと評価されている。
 将来に有望視される先端的な技術分野としては,「生分解性プラスチックの試験方法」,「ハイブリッド自動車の燃料測定方法」などで日本が標準化活動を主導している。また,業界独自の取り組みとしては,社団法人日本電気制御機器工業会(NECA)が2006年現在,3つの国際標準の策定を進めており,今後の活動の進展に注目している。

「国際標準総合戦略」の推進に際し,改めて日本が注力すべき点は何か。


 経済活動における「強制規格」や「標準」の意味と重要性に対する関心,意識を日本全体で育むことが基本姿勢であり,同時に最も重要な課題だ。本連載で述べたように,特に企業の経営層に対しては積極的な働きかけを行い,今後の日本の標準化活動を先導してもらいたい。現実にはそれぞれの企業あるいは産業分野ごとで標準化活動に対する関心に「温度差」が存在している。日本の産業界としての取り組みを促す意味では,日本経済団体連合会(経団連)などを通じた活動にも期待したい。
 行政としては標準化活動に関する事例集の発行などで支援する。国際標準化に至った技術事例に加え,こうした交渉活動における困難点あるいは課題点などをまとめる予定である。また,国際的な活動としては,代表的な標準化団体における幹事国引き受けの機会を増やすことも重要だ(表1)。


図1:主要な国際標準化団体と幹事国の引き受け数
主要な国際標準化団体と幹事国の引き受け数
主要な国際標準化団体と幹事国の引き受け数
出所:「CIPOフォーラム」第2回セミナー,藤田氏の基調講演資料より抜粋。



基調講演を行う藤田氏
CIPOフォーラム主催のセミナー,「グローバルな市場優位性を目指す標準化技術と知的財産経営」で基調講演を行う藤田氏(2006年12月7日,東京都内)。
 その上で,産学官の連携に基づいた「国際標準化人材」の育成に努める。先進企業でも標準化活動に専任してきた人材はわずかであり,専門人材の育成が急務である。加えて長期的な育成を図るためには,大学などの研究機関,そしてそれ以前の啓発的な活動も視野に入れるべきだ。
 さらに,今後の活動では海外諸国との連携が大きな意味を持つようになると思う。規格や標準化にはアジア圏の諸国も関心を持ち始めており,中国や韓国などはすでに独自の取り組みを進めている。日本にとってはこれらの国々は競争者であると同時に,「アジア・太平洋」の枠組みによる協調活動のパートナーとしても大切な存在である。アジア圏の国々は標準化活動の実績や経験などが少なく,国際的な標準化団体の幹事国などに就くことも非常に限定的であるため,日本がこうした活動を主導し,貢献する場面や機会は多々存在する。今回の総合戦略では「アジア太平洋標準化イニシアティブ」の構築を具体的目標として掲げている。
 標準化活動には「1つの失敗が後々にまで影響する」という怖さがある。特に国際的な標準化活動は多くの困難が伴い,短期的な事業収益の観点では成果が可視しにくい。それが,かつての「他の国や人々が作った標準を後から導入して,それに従えばいいのではないか」との企業の姿勢につながったことも否めない。最近あるエレクトロニクス系の先進企業の経営者は,規格文書などで文言によって規定された技術を単純に追いかけ,それに従っていけば済むような簡単な領域ではないことを自社の経験を基に指摘している。「規格や標準を定義する文書には策定者の意図した数多くの"行間"がある」ため,それを読み取ったり解釈を加えたりして自社の技術開発へつなげる作業は非常に難しいという。さらに,その後の事業化や市場獲得を考慮すれば,「既存の規格を導入した方が楽だ」という場合はほぼ皆無だ。




藤田昌宏氏 プロフィール
東京大学法学部私法学科卒業。1977年4月,通商産業省入省。
外務省在ビルマ日本国大使館赴任後,1994年7月,貿易局長期貿易保険課長,1996年7月に工業技術院標準部国際規格課長に就任。機械情報産業局産業機械課長などを歴任後,2004年6月に経済産業省大臣官房審議官に就任。
2005年8月,現職に就任。主な著書に「誰も知らなかったビルマ」(文藝春秋社,1989年),「国際標準が日本を包囲する」(日本経済新聞社,1998年)。




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