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地上デジタル放送への完全移行を阻害する「コピー・ワンス」問題
経済産業省・情報政策企画官・藤原 豊氏インタビュー(3)
[2006/02/17]

 著作権制度の見直しの方向性を検討してきた文化庁・文化審議会の著作権分科会は,2006年1月12日に最終報告書を公表した。同報告書は,デジタル化時代に直面する著作権制度の見直しが必要なことを指摘している。
 デジタル著作権とその技術的保護手段(DRM)をめぐっては,放送コンテンツに関する録画の問題が新たな課題として浮上しており,特にデジタル複製を制限する「コピー・ワンス」は2011年の地上デジタル放送への完全移行について対応機器の普及などで阻害要因になっている,との指摘がある。デジタル著作権問題について産業政策の観点から取り組んでいる経済産業省・商務情報政策局の情報政策企画官の藤原 豊氏に,この問題と対応を聞いた。3回連載の最終回である。
(聞き手は河井貴之=日経BP知財Awareness編集)

経済産業省・情報政策企画官
藤原 豊氏


デジタル著作権に関する技術的保護手段(DRM)をめぐって,「コピー・ワンス」問題に注目が集まっている。これはどのような問題か。


 コピー・ワンスとは,地上デジタル放送などのコンテンツの著作権保護を目的として,文字通りデジタル複製(コピー)を1回に制限する仕組みである。この仕組みは2004年4月に始まり,地上デジタル放送を含むすべての放送コンテンツは,「1回だけ録画を可能にする」の制御信号が加えられている。そのため,機器にデジタル録画された放送コンテンツは,オリジナル・データを残したままでの「複製(ダビング)」はできない。データの「移動(ムーブ)」のみ可能となっている(写真1参照)。
 「放送」に対する著作権の保護としては,データの暗号化が図られている。各受信機器における暗号の解除は「B-CASカード」が担保しており,コピー制御信号に的確に反応する受信機の製造メーカーにのみこのカードが支給されている。
写真1:「コピー・ワンス」による現行のコンテンツ利用

出所:JEITAによる2006年1月の記者説明会資料より引用。

 コピー・ワンスに関する最近の論議は,2005年7月に総務省が公表した「情報通信審議会・第2次中間答申」が契機になっている。同答申は,「デジタル・データのダビングやバックアップができないこと」や「ムーブの失敗」など従来のアナログ放送コンテンツの録画ルールに慣れた視聴者の不満を指摘し,「こうした問題が解決されなければ,2011年の地上デジタル放送の全面移行に向けた受信機の普及に際して大きな障害となる」との内容の懸念を示した。加えて,デジタル放送番組のコピーについて考え方の原点を「複製は私的録画の範囲内である」とした上で,「コピー・ワンスの現行の運用を固定化する必然性はなく,私的利用の範囲で視聴者の利便性を考慮して運用の改善に,関係者が一体で対応することが必要だ」と結論付けた。
 現行のコピー・ワンスに関しては,対象とする「放送コンテンツ」への「技術的保護手段」がすでに厳格に講じられている,という状況が重要だ。技術的保護手段の整備が急速に進みつつも確立の途上にある音楽コンテンツとは,大きく状況が異なる(前回記事)。
コピー・ワンスに代わる仕組みを2006年1月に社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が提案した。これはどのような仕組みか。


 先に説明した答申に基づいて,家電メーカーや放送事業者など関係者が2005年11月に協議を開始し,2006年2月時点までに数回の会合を開催している。
 JEITAが提案した「出力保護付きでコピー制限なし(encryption plus non-assertion : EPN)」とは,暗号を解除できる特定の受信機であれば回数・世代に制限なくコピーできるが,インターネットへの再送信はできない仕組みである(写真2)。そのため,日本版「ブロードキャスト・フラグ」とも位置付けられる。
写真2:EPNによるコンテンツ利用

出所:JEITAによる2006年1月の記者説明会資料より引用。

 JEITAは,EPNが現行の地上デジタル放送の運用規定(ARIB TR-B14)に基づく受信機能の要件に従って運用できることから,「スムーズな移行が可能だ」としている。
グローバルな技術規格としても現行の「コピー・ワンス」方式は特異と聞くが,どのような点に問題が存在するのか。


 コピー・ワンスの見直しについて,権利者や家電メーカーなど関係者間での「仕組みの運用」を巡る協議と並行して,行政としては,競争政策の観点から検討を進めている。その議論では,そもそもコピー・ワンスなどの放送関連機器やシステムに関する一連の仕組みや技術が,日本において特定の社団法人などが決定した規格や運用であることに着目している。
 2005年12月に公表された「規制改革・民間開放推進会議」(議長:オリックス会長の宮内義彦氏)の第2次答申は,「コピー・ワンスが視聴者・国民による録画視聴に不便を与え,デジタル放送普及を阻害する要因の1つとなっており,その緩和に向けた見直しが必要である」との内容を明記し,その上で,「現行の放送関連の機器・システムの規格・運用の決定プロセスそのものの透明性・競争性」について議論を進めている。
「過度の権利保護が消費者の利便性やデジタル・コンテンツ産業の振興を阻害するのではないか」との懸念がある。この点についてどう考えるか。


 2005年11月に始まった知的財産戦略本部・コンテンツ専門調査会(座長:ウシオ電機会長の牛尾次朗氏)が近々正式に公表する「コンテンツ振興戦略」案には,コピー・プロテクション・システムなどの設定について,「すべてのユーザーの利便に一律に重大な影響を与えるものであるため,幅広い関係者の参加の下,検討プロセスの公開・透明化,システム間の競争を促進すべきだ」との指摘が記された。また,すでに採用されたシステムについては,「透明・競争的かつ継続的な見直しプロセスを明確化すべき」とし,さらに,「技術規格などは,その性格上,一度設定されると事実上の利用制約となりえることを踏まえ,その設定が,新規参入を阻害するものにならないよう,公正な競争環境を確保すべき」といった内容で論及している(関連記事)。
 本連載の(1)と(2)で取り上げた私的録音録画補償金制度,そしてコピー・ワンスのいずれの問題においても,制度の見直しを図る上では,デジタル時代の最大の被益者を消費者・利用者とする「消費者・利用者本位」の基本原則を忘れてはならない。その上で,権利が及ぶ範囲やその強弱のバランスだけでなく,「いかにしてその制度や仕組みに合意したか」といった過程を明確に示すことが重要だと思う。これらは,民間・行政を問わず尊重すべき基本姿勢である。
 経済産業省としては,文化庁や総務省などの関係各省と連携して,消費者,家電メーカー,著作権の権利者などと協働していく。



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