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主要な論点と産業界の反応(上) 奈良先端科学技術大学院大学 知的財産本部 特任助教授/弁理士 吉田 哲氏 [2005/09/14] 米国連邦下院議会の知的財産小委員会は,この6月8日に「2005年特許法改正法案(Patent Reform Act of 2005)」を議会へ提出した。改正法案には,(1)特許権の付与後異議申し立て制度の導入,(2)権利侵害品の差し止め請求と損害賠償額の適正化,(3)先発明主義から先願主義への移行,など従来の米国特許制度を大きく変える要素を含んでいる。 この特許法改正法案に対して,米国産業界からは業種や利害関係に絡んで様々な意見,提案が出ている。こうした状況について,2005年8月まで米国の特許事務所で実務に携わっていた奈良先端科学技術大学院大学・特任助教授の吉田 哲氏が改正法案の主要な論点と産業界の反応を全3回の連載で報告する。今回は,付与後異議申し立て制度の導入と侵害認定品の差し止めおよび懲罰的な損害額の算定に対する制限,についてである。 はじめに 2005年9月時点で,米国では特許法の改正動向が話題となっており,日本でも強い関心を集めている。(関係記事)。今回の改正案は,主として大企業からの要求に基づいて構成されたといわれており,発言力の大きな大企業からは特に大きな反対意見は出ていない。ただし,総論としては特許法の改正に賛成していても,それぞれの具体的な課題,あるいは各団体の立場によって,多様な意見が表明されていることも事実である。米国特許法の改正草案における主要な項目として,(1)権利付与後の異議申し立て制度の導入,(2)侵害認定品差し止めと懲罰的な損害額の算定に対する制限(適正化),(3)特許出願における「先願主義」への移行,がある。ここでは,各項目を要約した上で関連する産業界の動向および意見を紹介する。 付与後異議申し立て制度の導入について 今回の米国特許法改正を通じて,大企業は特許の「質」の向上を最も強く要求している。中小企業の多くもこれに賛成しており,こうした状況を鑑みると,特許権付与後の異議申し立て制度を米国が導入する可能性は高い。しかし,同制度の内容については産業分野によって意見の相違があり,細部について今後,さらに論議が深まると思われる。 具体的には,申し立て期間について,産業分野で見解が異なる。2005年6月時点の特許法改正草案には,付与後の異議申し立て期間として,(a)特許権付与後9カ月間,(b)(侵害紛争時に)特許権者からの通知(警告状)を受け取ってから6カ月間,という2期間が盛り込まれた。この申し立て期間について,ソフトウエア業界はさらに長い期間を設定すべきだとし,「特許付与後は2年間,警告受理後は1年間」,がそれぞれ妥当とする(関連記事)。一方,製薬業界は「第2の期間(警告後6ヵ月間)は不要」との意見を表明している。なお,採用されてはいないものの,スミス下院議員が,この第2の異議申立期間を削除した改正案が提案している(2005年9月15日時点)。多くの特許が乱立し,そうした特許の有効性に関する係争が数多く発生しているソフトウエア業界は,有効性に疑問が残る特許権による訴訟を減らしたい意図がある。これに対して,製薬業界は,米国連邦食品医薬局(US Food and Drug Administration:FDA)の承認を得てようやく販売が認可された特許製品に関して,警告後の異議申し立ての審議でさらに1年間程度,権利行使を制限されることを回避したいとの意図がある。 このほか,ベンチャー企業の多くは,異議申し立て制度の導入よりも,特許出願から権利化までの期間短縮を改正に望んでいる。例えば,特許ライセンスをビジネスとするIntellectual Ventures社代表であるNathan P. Myhrvold氏は,付与後異議申し立てについては反対しないものの,「現在の特許制度における問題は,特許の質よりも遅延した特許審査である」と指摘する(関連記事)。 なお,今回の改正案が実現した場合,米国特許商標庁の業務負担が増大するため,人材,予算の確保を疑問視する意見が出ている。従来,特許料収入の一部は他の政府機関に転用されていた。特許の質を向上するためにはこのような収入の転用を止め,特許料収入はすべて特許商標庁が使うべき,との提案を米Microsoft Corp.が表明している。(関連記事)。 侵害認定製品の差し止め,懲罰的な損害額の算定に対する制限(適正化) 現行の米国特許法制度では,侵害訴訟を通じて特許権の侵害が一旦認定されると,ほぼ自動的にその製品の製造・販売などを差し止めることができる。侵害を認定された特許権がその製品の一部にのみ関連している場合においても,製品自体の販売禁止が認定される。加えて,侵害を受けた特許の権利者が,その特許を使った製品を販売しているか否かは考慮されない。 こうした点を,侵害訴訟において被告として中小企業などから訴えられる場合が多い大企業などが問題視している。今回の改正案には,過度の権利行使を抑制する観点から,差し止め認定の条件を厳格化する内容が盛り込まれている。具体的に,特許発明を実施していない特許権者に対して,仮にその特許権が侵害された場合でも,相手方の製品の差し止めを認めない,とする方向である。合わせて,意図的な権利侵害に対する懲罰的な損害額の算定に関しても,認定の判断基準を現状より厳しくし,意図的な侵害と判断される場合を少なくするための提案が含まれている。 これらの改正案は,特許権侵害訴訟において被告側に有利に作用する内容であり,大企業を中心に「特許権の権利行使を適正にする改正だ」として賛成する意見が数多く出ている。しかし,中小企業側からは,「将来,大企業とのライセンス交渉などに大きな影響が及ぶ」と懸念する声が出ている。製品の差し止めや懲罰的な損害賠償が将来起きる可能性が低いならば,大企業は侵害訴訟前に中小企業を相手とするライセンス交渉に応じる動機がなくなる,というのがその主な理由である。同様の意見は,前出のベンチャー企業団体に加えて,知的財産権の所有者により構成されるIntellectual Property Owners Association(IPO)も表明しており,「この点についての改正案は特許権の価値を低下させ,技術革新をけん引する米国特許制度の役割を低下させる」と指摘している。 「ライセンス交渉を促す特許権の意義をいかに保持するか」が課題 今回の特許法改正に関連して,米国では無効理由を含む可能性がある特許権であってもこれを使い,将来の製品差し止めや懲罰的な損害賠償を「切り札」としてライセンス交渉を有利に進める,という従来の事例が改めて注目を集めている。確かに,こうした事例は権利の適切な行使・活用とは言い難い。しかし,中小企業の代表者William Parker氏が指摘するように,「製造部門を持たない企業にとっては特許権などのライセンス収入が収益の柱であり,経営上きわめて重要な役割を担ってきた」状況も無視はできない(関連記事)。 権利濫用を抑制しつつ,企業間の積極的なライセンス交渉を促すインセンティブとしての特許権の意義をいかに保っていくかが,今後の重要な課題の1つとなっている。 (次回へ続く) |
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