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早稲田大学法学学術院・助教授の渡辺宏之氏知財信託は資金調達の“魔法の杖”ではない
早稲田大学助教授・渡辺宏之氏に聞く(下)
[2005/02/21]
 2004年12月に信託業法が改正され,知的財産を信託財産として扱うことが可能になった。これを受けて,広い範囲で「知財信託」が注目を集めている一方で,実務家の間では実際にいかに運用すべきかといった検討が深められている。
 財団法人知的財産研究所編『知的財産権の信託』の執筆者の1人であり,ファイナンス法的な観点から研究を進める早稲田大学法学学術院・助教授の渡辺宏之氏に,知財信託の概要と問題点について聞いた。
(聞き手は河井貴之=日経BP知財Awareness編集)
「知財信託」は資金調達面で新たな手法として大きな期待がかかっているが,どう見るか。
 欧米では,音楽著作権の流動化について信託を使った仕組みが一部で見られるが,すべてロイヤルティ債権の流動化というべき状況である。その意味で,日本における取り組みは独自の手法として期待できるとともに未知な部分が多い,というのが現状である。
 実は,知財信託的な仕組みが日本においてこれまで皆無だったわけではない。具体的には,資産流動化法に基づく「特定目的信託」,特許登録令による「特許権信託」があった。
 特定目的信託は,信託会社が特許権などの知的財産権を受託して,その受益証券を発行する,という仕組みである。著作権分野では,音楽著作権について社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)による「著作権信託契約」が実施されている。法制では,2000年に著作権と著作隣接権に関して「著作権等管理事業法」が制定され,信託業法の適用範囲を除く部分で,信託業務の規定が定められていた。
「知財信託=資金調達」という発想は誤りか。
 信託全体の仕組みからいえば,資金調達は受益権の売買によって可能な行為である。株式や組合持分などによる「エクイティ」性の資金調達を除けば,結局は受益権の対象となる知的財産権自体の価値評価が重要になる。例えば知財担保融資や知財の証券化といった他の知財ファイナンスの仕組みにおいても,この点は同じである。受益権に金銭的な評価を下す上で大切なのは,信託という「器」ではなく事業の中身である。
 知財ファイナンスという枠組みの中では信託も道具の1つに過ぎない。知財信託は「魔法の杖」ではないということだ。資金調達という観点では,知財の価値評価の手法が確立され普及するといった環境が第一に必要である。その一方で,「投資事業有限責任組合」などを利用した,知的財産権への投資に適合的なエクイティ型の投資スキームの活用をさらに図っていく必要がある。
知財信託の普及には今後どういった条件が必要か。
 法制の整備を前提にして,信託の利用目的に分けて考える必要がある。
 第1に,「知的財産の管理を委託したい」というニーズに見合うだけの,受け手の拡大が重要である。委託ニーズは大きいと思われるが,それに対して知財の管理専門会社,信託専門会社などがどれだけ対応できるかが今後の動向を大きく左右する。この際,信託設定に関する手数料,管理費などコスト的要素も検討する必要がある。中小企業,ベンチャー企業のニーズが特に見込まれる。こうした企業に関しては「倒産隔離機能」もメリットになるため,ベンチャー・キャピタルによる信託利用の可能性がある。
 第2に,管理型信託の普及については信託自体の仕組みよりも各企業における知財戦略,事業戦略の展開に依拠している。企業間の権利移転の際に税務リスクを減少できるなどのメリットがあるが,企業グループとして知財をどのように管理して活用するかは当然さまざまである。一様に管理型信託が普及するということではない。実例として,当初は信託に積極的な関心を示していた大企業が現在は慎重に活用方法を検討していると聞く。
 第3に,資金調達というニーズ面では前述のとおり価値評価が大きなカギになる。その意味で,当面は価値評価・事業評価が比較的容易な著作権などが知財信託に適している。換言すればロイヤルティ債権の流動化的な色合いが濃い仕組みが適当であり,これは知財流動化の他の仕組みについても同じである。特許権などの場合はライセンス収入が確定している権利などが該当する。評価方法がクリアになれば,証券化の器としても信託は有効である。こうした動きに並行して,先述した投資事業有限責任組合などを利用したエクイティ型投資スキームの活用促進が必要である。
 冒頭で述べたように,信託の原義は「財産の運用や管理を,信頼を基にして他者へ委託する」ことにある。いずれにしても,「なぜ信託を利用するのか」といった目的を明確にした上で具体策を検討することが肝要である。


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