「特許製品の再生に関する権利侵害は,技術開発を通じた経済の発展の観点から,大局的な問題の検証が肝要である」。一橋大学大学院 国際企業戦略科教授・相澤英孝氏はこのように指摘する。近年,レンズ付きフィルムユニット,プリンタ用のインク・カートリッジの「再生品」をめぐる侵害訴訟などが増えて,産業界,法曹関係者,学会において多くの議論が生まれている。同様に,この問題は,知的財産権に関する世界的な課題となっている。実際の訴訟における争点と考え方,解決すべき課題を相澤氏に聞いた。
(聞き手は河井貴之=日経BP知財Awareness編集)
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インク・カートリッジの「再生品」に関する訴訟(平成16(ワ)8557特許権侵害差止請求事件)では,使用済みの特許製品の再生に対する特許権の効力に注目が集まっている。これはどのような問題か。 |
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「特許製品が譲渡された後は,特許権は,用い尽くされたものとなり,もはや同一物につき再び特許権を主張することはできない」とする考え方を,「消尽(用尽)」という。この考え方は,「特許権者から正当に購入した特許製品については,使用や再販売といった行為が特許権を侵害しない」ことの根拠となっており,特許製品の円滑な流通を保護するためのものである。
インク・カートリッジの場合,「販売店あるいは消費者が購入した段階で特許権が消尽している」と考えることができる。それは,特許権者と販売店や消費者の間には,「正当な」譲渡関係があり,そのインク・カートリッジを,(販売店などが)そのまま譲渡したり,(消費者などが)プリンタで利用したりすることは,特許権者,販売店,消費者に想定されている行為だからだ。しかし,インク・カートリッジを使い切り「廃棄物」となった後に,このインク・カートリッジを第三者が収集・加工して「再生品」とすることは,特許権者,さらに譲渡を受けた販売店や消費者が想定している行為とはいえない。
インク・カートリッジをめぐる侵害訴訟では,塵芥(じんかい)として廃棄されたインク・カートリッジを,(特許権者とは関係のない)事業者が収集し,これを加工・輸入の上,販売しているという実態に注目すべきである(編注)。
このような状況を鑑みると,本件において,消尽理論に基づいて「特許権が消尽しているから,その使用済みのインク・カートリッジを再生する行為が特許権侵害に該当しない」とは言い難い。
アメリカ合衆国では,使用済みのいわゆる「使い捨てカメラ」の再生について特許権侵害に該当しないとする裁判例がある。しかし,この裁判例では,「外国で販売され,使用済みの使い捨てカメラを,再生して輸入する行為は特許権の侵害となる」としているのであり,特許製品の並行輸入を広く認めている日本の特許法の参考判例にはならないと考えるべきである。
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一橋大学大学院 国際企業戦略科教授・相澤英孝氏
1977年,東京大学経済学部卒業。
1983年,東京大学大学院法学政治学研究課博士課程単位取得退学。
筑波大学助教授,早稲田大学助教授,教授を経て,2004年,一橋大学教授,東京大学特任教授,早稲田大学客員教授。
工業所有権審議会委員,産業構造審議会臨時委員。
「バイオテクノロジーと特許法」(弘文堂・1994),「電子マネーと特許法」(編著,弘文堂・1999),「知的財産法概説」(西村ときわ法律事務所共編著,弘文堂・2005)ほか。 |