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味の素・アスパルテーム職務発明訴訟の真実(上) 1億5,000万円は“紛争解決金”に過ぎない [2005/02/24]
「当社が支払った1億5,000万円は紛争解決金に過ぎず,相当の対価が認定されたわけではない」。味の素・知的財産センター長である杉崎宏光氏は,こう強調する。同社の甘味料「アスパルテーム」の製法特許をめぐって,元社員の成瀬昌芳氏が職務発明に関する対価の支払いを求めていた訴訟は,2004年11月19日に和解が成立した。和解内容は,味の素が成瀬氏に対して1億5,000万円の和解金を支払うことで決着した。訴訟では何が争われ,そして何が課題として残されたのか。杉崎氏にアスパルテーム職務発明訴訟の真相を聞いた。(聞き手は久保田茂夫=日経BP知財Awareness編集委員, まとめは河井貴之=日経BP知財Awareness編集) アスパルテーム職務発明訴訟で控訴した理由は何か。1審判決について,味の素はどのように評価したか。 2004年2月24日に下された1審の判決では,原告の発明に対する相当対価額は1億9,935万円とされた。当社はこの判決に対して同年3月5日に控訴した。その時点で論点は,(1)時効の問題,(2)外国特許の取り扱い,(3)相当対価額の算定方法,に絞られており,判決の問題点を指摘した上で当社の主張を再度打ち出すつもりだった。 具体的にはどのような論点が存在していたのか。 (1)について,問題となった特許は1982年に日本で出願されており,1審判決ではこの特許の時効起算点を1982年とし,10年後の1992年に「時効が完成している」と判断された。ところが,当社が2001年に原告へ1,000万円の特許報奨金を支払ったことを理由として,時効を主張することは「信義則に反する」として認められなかったのである。この報奨金は,特許法35条の対価とは関係のない単なる「ご褒美」であり,かつ成瀬氏もその認識に基づいて受領したにも関わらず,裁判所は「実績補償金」と解釈し,「原告へ特許時効の援用をしないとの信頼を与えた」と判断した。この「信義則違反」の判断は従来の最高裁判断と異なっており,納得がいかないものだった(関連記事)。(2)について,日本の特許法は日本国内の産業政策に基づいて制定された法律であり,特許を受ける権利に関しても,「日本において特許を受ける権利」を規定したものである。1審判決は同35条の解釈として,外国において特許を受ける権利をも含まれると認めた。しかし,この解釈は条文の規定を超えた無理なものであろう。(関連記事) (3)について,(a)発明の創出に関する会社貢献,(b)食品添加物の認可など事業利益の創出における会社貢献,両者が他の職務発明訴訟と比較すると高い割合で認められたことは1審判決において評価できる点だが,対価額の認定には反映されていなかった。特に,仮想のシェアと売り上げに関する算定に問題があり,その意味で対価の額は合理性を欠く数字であった(関連記事)。 和解に至るにはどのような経緯をたどったのか。 控訴審における3回の口頭弁論を経た後,2004年9月30日に担当裁判官から,当社と成瀬氏の両者に対して職権による和解が勧告された。その後,4回の和解期日が設定された。協議の上,同年11月19日に和解が成立した。和解内容はすでに報じられているように,1億5,000万円を当社が成瀬氏に支払い,成瀬氏は当社に対するその他の請求を放棄する,ということになった。 和解金額に大きな注目が集まった。この数字には,何らかの算定基準があるのか。 この1億5,000万円は紛争解決金であり,報奨金でも実績補償金でもない。あくまで,当事者間の争いを止めるための金額である。裁判所による対価の認定も,詳細な算定も実施されていないため,算定の根拠や基準はいっさい存在しない。同じ和解とはいえ,日亜化学と中村修二氏の間で争われた訴訟では裁判所として明確に算定根拠を示した上で相当対価が算定されており,和解金の性質は,当社のケースとはまったく異なっている。一部の報道は,当社ケースの紛争解決金の額を1審判決で示された「5%の発明者貢献率」と結びつけたり,「発明対価の相場形成である」といった伝え方をしたりしたが,それらはまったくの誤解である。当社ケースの和解金は,算定根拠がない,裁量と総合的判断の結果であるため,それが他の訴訟における対価算定や報奨規程の改定において何らかの指標になりようがない。(次回へ続く) |
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