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発明や特許の価値評価に対するキヤノン田中常務の提言(4) 周囲の技術体系や技術の経時変化を考慮すべし ![]() [2005/04/08] キヤノン常務取締役 知的財産法務本部長 田中信義氏 2005年4月1日から職務発明に関する改正特許法35条が施行される。職務発明問題は会社の経営を左右する大きな問題になっており,今回の改正に合わせて各企業とも職務発明規程を改正したり従業員へ説明したりといった具合に法的リスクマネジメントに多くの時間をかけている。しかし,これだけで会社と従業員をめぐる職務発明対価の問題が完全に解決する訳ではない。中でも,発明の評価・算定方法は依然として大きな問題のまま残っている。この問題に対してキヤノン常務取締役・知的財産法務本部長の田中信義氏が,技術の経時変化に着目した発明評価の考え方を今回初めて提示した。同氏はキヤノンで技術開発,事業,知財,経営の各部門を歴任しており,知財に関する戦略を経営の観点から統括できる立場として最近注目を集めている「知的財産統括責任者(CIPO: Chief Intellectual Property Officer)」の草分けと言える。その経験を基に,発明の価値評価のあり方を,実例を交えて4回連載で詳細に議論している。同氏自らが筆を取って知財Awarenessに寄稿した今回の論文は,これまで知財部門の専権事項であった発明の解釈・評価のあり方に一石を投じており,今後の職務発明訴訟にも大きな影響を与える可能性がある。最終回の今回は発明の価値はその技術的な背景から判断すべきことを示す。 (日経BP知財Awareness編集委員 久保田茂夫) 前回示したことに加え,発明や技術の解釈では発明が何ゆえに生まれたかということを考慮しなければいけないことがある。ここで示した発明の背景をもう一度整理してみると,LBPの小型化・低価格化のためにポリゴン・ミラーの製作誤差の許容度を大きくしたいという目的からスタートしている。このことから,加工技術が進歩してポリゴン・ミラーを低コストで小さい誤差で製作できていれば,最初の問題を解決するための共役型倒れ補正光学系の発想は生まれてこなかったはずである。さらに共役型倒れ補正光学系を使っても,感光層の技術開発が進み,CdS樹脂分散系の感光層を使った感光ドラムのような,表面性が悪く散乱反射が多い感光ドラムに換えて,散乱反射の少ない感光ドラムを採用できていれば,静止ゴースト像の発生という問題は起きなかったはずである。 実際,LBPの性能を向上させるため,感光材料自体が大きく変わってきた。感度向上を目指す方向では,入射した光を感光層の中にできるだけ多く取り込めるようにするために感光層の表面反射を抑える方向に技術開発は進んでいる。解像度向上を目指す方向では,感光層の表面はできるだけ粗面にならないように表面性を良くする方向に技術開発は進んでいる。これらの結果,感光材料はCdSからOPC,アモルファスSiへと変遷し,アモルファスSiを使った感光ドラムの散乱反射光は極めて小さくなった。散乱反射が減ったため,数式条件を満たしていなくても静止ゴースト像は問題にならなくなってきた。すなわち,周囲の技術の発達によって静止ゴースト像の発生という問題自体がなくなってきたのである。たまたま,特許クレームの数式条件を満たしていたとしても,問題自体が起きていないのだから,その特許を使用していないと解釈できる。ところが,実際の特許評価では,感光材料等の周辺技術の進歩までは考慮せずにアモルファスSi感光ドラムを使った製品でもこの特許の適用範囲に入るという誤った判断をしてしまうことが多い。 また,現在使われているLBPの光学系では,今回の特許とは全く別の目的から入射角αを小さく設計していることがある。例えば,αを小さくすることによってポリゴン・ミラーを小型・軽量化して高速回転させ,単位時間当たりのプリント枚数を増加させる場合などである。このような場合でも,クレームに記載された条件式に入っていれば,前記したように入射角αが技術的に厳密な条件式の範囲から外れている場合でも,今回の特許を使用していると判断されてしまう。 発明の価値判断では技術体系の把握が重要 以上のように,ここで取り上げた事例である静止ゴースト像を除去する発明の評価をする場合,電子写真技術の発明に始まり,その後の普通紙複写機やLBPの製品開発に関連した膨大な発明群の存在を忘れてはならない(図2)。この静止ゴースト像の発明はLBP製品を構成する多くの部品の一つであるポリゴン・ミラーの低コスト化という課題に関連した発明である。実際に使われた技術として評価されなければならないが,電子写真技術という大きな技術マップの中においては一つの支流に属する技術の発明の一つ過ぎないということである。 図2:普通紙複写機及びLBPの要素技術 ![]() 発明の価値は,技術の変革,代替技術の存在などにより,その価値が大きく変化する。また数式限定や数値限定を構成要素とする発明の場合は,その時代ごとに,周辺技術の状況を正確に把握しなければ評価ができない。評価する際に必須といわれる発明でも,何を前提に必須なのかということを,正しく議論しなければならないし,その必須性も時間とともに変わることに注意を払う必要がある。極論すれば,前提を多くして検討の範囲をどんどん狭くしていけば,すべての発明が必須になってしまう。 企業における知財担当者は,発明の価値を判断する場合にその発明の属する技術体系をできるだけ正確に把握し関連発明の相互の関係をみながらその発明の位置付けを正確にとらえておく必要がある。それをすることなくそれぞれの発明を個別に判断していくと高い価値の発明と低い価値の発明を逆に評価してしまう危険があることを肝に銘じるべきである。 本論文中の数式解析は,キヤノンのプラットホーム開発本部画像技術研究所所長工学博士である河村尚登氏の助力に負うところが多大であり,ここに深く感謝する。 |
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