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中国出願特許に潜む「誤訳リスク」とは
中国弁理士の劉 新宇氏,早稲田大学教授の楊 達氏らが指摘
[2005/11/21]
中国弁理士 劉 新宇氏
北京林達劉知識産権代理事務所 所長
弁理士 劉 新宇氏
 「中国出願した特許の中には,明細書を中国語へ翻訳する際に誤訳が生じ本来の効力を持っていないものが多数存在しており,訴訟やライセンス交渉などの段階で初めて気付く日本企業が多い」。中国での特許出願・取得における「誤訳リスク」について,数多くの日本企業をクライアントに持つ北京林達劉知識産権代理事務所の所長,弁理士・劉 新宇氏は警鐘を鳴らす。最近,日本企業が中国において権利を積極的に行使するようになり,こうした問題の発生が急増していると言う。劉氏と,日中翻訳の専門家の立場からこの問題に詳しい早稲田大学文学部教授で早稲田大学中国語教育総合研究所(WEIC)所長の楊 達氏,同研究所・翻訳部の田 禾氏に,誤訳の実態とリスク回避のための対処法を聞いた。
(聞き手は河井貴之=日経BP知財Awareness編集)

WEIC所長 楊 達氏
早稲田大学文学部教授/早稲田大学中国語教育総合研究所(WEIC)所長
楊 達氏

WEIC翻訳部 田 禾氏
WEIC翻訳部 田 禾氏
日本企業が中国で出願した特許について,誤訳に関する問題が多発していると聞く。

 近年,日本企業による中国国内での特許取得が盛んだ。しかし,これらの中には,明細書を中国語へ翻訳する際に誤訳が生じ,本来権利が持つべき効力を持っていない特許が,多数存在している。例えば,「半導体上に配置した回路」という記載について,日本語では「半導体の中に」といった意味で「上」という言葉を用いることがある。しかし,中国語において「上」は,物理的な上下関係の「上」のみを意味し,日本語で使う「中に」といった意味では別の語彙を使う。日本語上の趣旨のまま中国語翻訳で「上」を使うこと,つまり元の意味に照らし合わせると明らかな誤訳だと判るが,表面的には意味が通じてしまう場合が少なくない。そのため,誤訳を含んだまま特許として成立してしまい,さらにそのことに気付いていない場合が多々ある。こうした企業は,訴訟やライセンス交渉など権利を行使する場面になって,ようやく誤訳の存在と,それによって特許が効力を持たない事態を知る。
誤訳リスクが生じる主な原因は何か。

 漢字を使う点で日本語と中国語は共通する要素が多い。日本語と英語のようにまったく異なる言語間に比べて,チェックがおろそかになる傾向がある。しかし,日本語と中国語は,異なる体系の言語である。先に示した「上」のように,同じ漢字などを使っていても意味や用法が異なる言葉は数多く存在する。そうした点で,むしろ日本語と中国語間の翻訳は細部での注意が必要だ。わずかな言葉の違いに見えても,翻訳上,特に厳格に権利範囲を定める特許明細書などでは致命的な誤りにつながる。

 本質的には,楊氏が指摘するように日本語と中国語の言語体系の違いが原因である。加えて,知財実務上は,企業内におけるチェック体制の未整備がある。
 一般的に,中国での出願に際しては,中国国内の弁護士や弁理士の事務所に翻訳を依頼する。残念なことに,権利化の速さを優先してその質を重視しない翻訳者,事務所が存在する。これについては,従来,特許の取得だけに満足していた企業側の姿勢も影響している。
誤訳リスクを軽減するためには,日本企業はどのような対処方法があるか。

 第1に,未然にリスク要因を排除する体制の構築が重要だ。中国での特許の取得を企図する企業は,知的財産部門に中国語を理解できる人材,最低限でも中国語を読解できる人材を配置すべきである。出願前に実務を任せる法律事務所や弁理士事務所とコミュニケーションを持ちつつ,社内で確認できる体制を整えることが望ましい。第2に,社内の研究者や翻訳の専門家など,第三者を交えたチェック機能の強化が特許の質の向上に直結する。
 すでに所有する特許については,自社の知的財産戦略上で不可欠な特許,特に権利行使を考える特許に関して誤訳の有無を精査したり,権利範囲を再確認したりすべきである。もし,効力を発揮できなくなる誤訳などが判明した場合は,一度取得した権利は原則的に補正する方法がないため,改めて出願するなどの対応が必要になる。
 いずれにしても,企業ひいては知財部門が主体となって作業に関わる各者に働きかけていく姿勢が肝要だ。

 翻訳確認の実務では,翻訳の専門家の立場から,直接的な誤訳を指摘するだけでなく,多義を持つ語彙に関しては1つ1つコメントを付している。こうした中間的な存在によるチェックを含むことで言葉の意味や認識の微妙なずれを埋めていくことが可能になり,さらに,法律事務所と企業の間のコミュニケーションの機会を増やすことにもつながる。


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