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職務発明訴訟における構造的な問題(10) ― 「青色発光ダイオード訴訟」を例として

職務発明訴訟における構造的な問題−結論
[2004/06/28]
知的財産制度研究会
弁護士 松山 遙氏(日比谷パーク法律事務所)
弁護士 西本 強氏(日比谷パーク法律事務所)

 この5月に,職務発明訴訟制度に関連した特許法の改正が成立した。しかし,同制度は依然として多くの構造的な問題を抱えている。この中で,本連載は,「対象特許の有効性が議論されていない」という点に注目し,現在の職務発明訴訟では「訴訟対象の特許が無効もしくは極めて限定的な価値しか持たない可能性があるにも関わらず,この点に関する議論が十分になされないまま,裁判所が巨額の相当対価を算定して支払いを命じている」現状について検討する。
 本連載では,中村修二氏と日亜化学工業の間の訴訟において争点である「2フロー制御特許」をケース・スタディの形で検討する。連載の最終回である今回は,(G)訴訟においては,日亜化学が無効であることを主張しにくい構造になっていることを示し,(H)最後に,本連載の趣旨をまとめる。

被告企業にとって無効主張はタブー
 本連載は2フロー制御特許を採り上げて検討してきた。これは,「巨額の相当対価と特許が無効になる可能性の問題」というテーマを解説する具体例として,好適な題材だからである。本連載は,2フロー制御特許の有効性や利用発明関係の成否を厳密に検討したものではない。「このような資料からすると,このような考え方もあり得る」という例に過ぎないことを留意いただきたい。
日比谷パーク法律事務所パートナー/松山 遥氏
松山 遥氏

日比谷パーク法律事務所アソシエイト/西本 強氏
西本 強氏
 その上で,(1)特許の脆弱さ,つまりいったん成立したとしても特許の権利は磐石ではなく,無効になる可能性をかなりの確率で含むこと,(2)企業が職務発明特許を実施する際に,他社特許を実施しなければならない場合があり,この場合は,自社特許の効力(独占力)が大きく減殺されること,を示した。
 しかし,これらの問題は,これまでの職務発明訴訟において議論の対象として採り上げられたことがない。重要な問題にも関わらず,なぜ俎上(そじょう)に載ってこなかったのだろうか。
 職務発明訴訟における構造的な問題の一端が,実はここに見える。被告企業の側に立てば,特許無効も他社特許の問題も,現実的には主張することは困難か不可能である。特許権者である企業が,自らその無効を主張することは矛盾した行動である。また,職務発明特許が他社特許の傘の下にあることを主張すれば,自ら他社特許の侵害を認めることになる。
 2フロー制御特許では,出願過程と異議手続において日亜化学は,先行技術との差異を強調して特許を取得している。それにも関わらず,職務発明訴訟が提起された段階で,態度を180度転じて特許の無効を主張することは,信義にもとる行為と言わざるを得ない。常識的に考えて,そのような主張をすれば社会から批判を浴びることは想像に難くない。
 そして,他社特許の存在について,「傘」となる特許の存在を容認する主張を展開すれば,その特許権者から直ちにライセンス料の支払いを要求されるか,特許侵害訴訟を提起されて多額の賠償金を支払う状況に陥りかねない。さらに,他社から提起された特許侵害訴訟の中で,職務発明訴訟の中で行った主張と相反する主張を行うことは,現実的に許されない行為である。

職務発明訴訟における構造的な問題
 日亜化学は,中村裁判の控訴審でも2フロー制御特許の無効主張はしない方針だという。これは,「したくてもできない」というのが,本音かもしれない。
 メディアの取材に対して日亜化学は,出願されたアルバック特許(特開昭63-7619)については言及している。しかし,筆者らの知る限り,成立したアルバック特許(特公平06-101439)の存在については一切触れていない。「200億円判決」の中でも,アルバック特許(特公平06-101439)はまったく言及されていない。
 このように,職務発明訴訟の被告企業が,特許の無効や他社特許の存在を主張することは,ほとんどあり得ない。これに対して,裁判所は法律上,当事者が主張した事由のみを基礎にして判決を下す。すなわち,被告企業が無効や利用発明性を主張しない以上,判決において無効などを認定することはない。それゆえ職務発明訴訟においては,実際にはかなりの確率で無効になる可能性を含む特許や,他の特許の利用発明に当たる可能性がある特許であっても,こうした問題を度外視したまま相当対価の額を認定することになってしまう。
 ここに,職務発明訴訟における構造的な問題の核が存在する。現行の職務発明に関する法制度(特許法35条)では,実際に権利行使をすれば無効になるかもしれない特許に対して,その点を無視したまま,数百億円という巨額の相当対価を認定する可能性がある。こうした矛盾を含む制度では,社会は納得できないだろう。最近の一連の判決の中には,社会感覚とかい離していると言わざるを得ないものもある。
 加えて,技術者・研究者に対する評価とその経済的報償の手段として考えた場合,技術者・研究者の能力・業績と,「偶然当たった特許」から得られた利益額は連動していないことは明らかである。それなのに,特許からの利益の一部を「分配」することで発明への「インセンティブ」を促進しようとする現在の法制度は,根本的な矛盾があるといえる。

 以上,本連載では,職務発明をめぐる法制度の抜本的改正(相当対価制度の廃止)が求められる理由の1つとして,特許の有効性に関する議論を展開した。

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