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「オープン化」は知的財産戦略の新たなキーワードになるか
金沢工業大学大学院教授・加藤浩一カ氏インタビュー(下)
[2006/02/01]

 ソフトウエアに関する知的財産に対し,企業の注力点が大きく変わり始めた。従来は権利化が中心だったが,ここへ来て,権利行使の動きが活発化している。
 こうした動向について,かつて日本アイ・ビー・エムの知的財産部門に所属し,主任弁理士などを歴任した金沢工業大学・大学院教授の加藤浩一郎氏に聞いた。同氏は,主に,(1)ソフトウエア特許をめぐる日本国内と世界的な制度動向,(2)ソフトウエア特許戦略の多様化,(3)ソフトウエア業界における研究開発と知的財産権の今後の方向性,に関する変化を指摘する。
(聞き手は日経BP知財Awareness編集部)

近年,「オープン・イノベーション」や「オープン・コラボレーション」に注目が集まっているが,ソフトウエア業界ではどのような状況にあるのか。
 加藤氏:技術開発と知的財産の関係について,「オープン化」が1つのキーワードになっている。ソフトウエア業界では,主に3つの理由によってこうした動きと親和性が高いといえる。
 第1の理由は,ソフトウエア製品の構造である。一般的には,「Windows」や「Linux」のようなオペレーティング・システム(OS)と,その上で動く応用的なアプリケーション・ソフトウエアに大別できる。アプリケーション・ソフトウエアは基幹となるOSの仕様や規格に基づき,それに従った形で開発され,機能する。さらに,ソフトウエアは,他のソフトウエアとの互換性へのユーザー・ニーズが高く,機能と構造の両面で相互に依存する傾向がある。したがって,そもそもソフトウエアは,特に基幹となるOSについて一定の情報がオープンになっていないと,アプリケーション開発や互換性というユーザのニーズに応えらない,という性質を持つ。
 第2の理由は,ソフトウエア製品市場に存在する,強いデファクト・スタンダード(事実上の標準)化の傾向である。簡単に言えば,パソコン(PC)の普及以前の「米IBM Corp. とその他大勢」の構図,PC普及に伴う「Windows」の席巻後の「米Microsoft Corp. とその他大勢」の構図,こうした大枠の中で業界が成長してきたと考えると分かりやすいだろう。製品自体の相互依存性が高いことに加え,圧倒的なシェアと技術力といった市場支配力を持つ企業があるため,デファクト・スタンダードに基づいて事業を展開するほかない。
 第3に,ソフトウエア特許の権利範囲は限定的な場合が多く,排他的な権利行使が難しいことである。加えて,第2の理由の中で説明したソフトウエア市場の構造を考えると,米IBM Corp.や米Microsoft Corp.に対して,あるいはそこで採用されている技術や規格・標準に対して異を唱えることは非常に困難である。よほど特化された領域でない限り,排他的な特許戦略は構築しづらいのではないか。
金沢工業大学大学院教授・加藤浩一カ氏
金沢工業大学大学院教授
加藤浩一カ氏

金沢工業大学 大学院工学研究科 知的創造システム専攻教授。
上智大学大学院理工学研究科修了。日本アイ・ビー・エムにおいてシステム・エンジニアの後,知的財産部門に所属し主任弁理士,課長,社外活動において太平洋知的財産協会委員,日本知的財産協会ソフトウエア委員会委員などを経て現職。
日本知財学会会員。
情報処理学会会員。
日本弁理士会会員。

「オープン・ソース化」は,こうした動きの一環と認識してよいのか。
 加藤氏:オープン化する「ソース」とは,ソフトウエアのソース・コードである。従来,特に一般向けのソフトウエアは,ソース・コードを公開しないことにより,その価値を守る場合が多かった。しかし,先に述べたような製品に対する互換性維持の必要性が高まりに加え,莫大なコストを要するソフトウエア開発を1社だけで進めることが困難な場合が増えており,プログラム・コードを公開し,別の開発者や企業がそのプログラムの改良や機能の追加などを容認し,さらに促進する動きも出てきている。
 市場環境との関係では,圧倒的な市場支配力を持つソフトウエアへの新しい対抗策と位置付けられる。開発段階で多くの開発者や技術を取り込むことで,優れた製品を作り出そうという狙いがある。例えば,「Windows」に対抗する「Linux」が典型的であり,そのほかにも米Microsoft Corp.の「Internet Explorer(IE)」が優勢となったWebサイト閲覧ソフトウエアの世界では,1998年に米Netscape Communications Corp.が自社の「Netscape Communicator」のソース・コードを無償で公開し,開発者のコミュニティとして,「mozilla.org」を結成した。同様の例は数多く存在する。

企業の知的財産戦略において,オープン・ソース化は有効な戦術として期待できるか。
 加藤氏:ここで注意すべき点は,ソフトウエアについて「オープン」や「フリー」といっても,(a)特許権や著作権などの知的財産権を放棄しているわけではないこと,(b)必ずしも「無償」という意味ではないということ,である。
 (a)について,そもそもオープン・ソース・ソフトウエア(OSS)は,例えばLinuxの「General Public License(GPL)」のような所定のライセンス条件などに従うことを条件として自由な再配布などを認めており,あくまで著作権の存在が前提となる。(b)についていえば,1980年代に始まったフリー・ソフトウェア運動における「フリー」とは,「自由な」という意味であり,「無償」を意味するものではない。事実上,使用の対価が無償であるソフトウエアも多いが,それは「オープン」や「フリー」の意味するところではない。
 企業が進めるオープン・ソース化には,相応の利益に対する期待があるはずだ。提供する側は,オープン化の目的とその戦略を明確にすることが肝要になる。また,使う側においては,オープン・ソースにメリットがあることは確かだが,「オープン・ソースだと安価で他者の権利を侵害するリスクがない」と考えてしまうことはまったくの誤解と認識すべきだ。
 このようなオープン・ソース化を用いる戦略は,近年注目されている技術標準の獲得において,標準化の基盤整備としてならば,十分に活用する余地があると考えられる。ただし,よほどの有力企業でない限り,1社単独での取り組みは不可能だ。フォーラムやコンソーシアムといったグループ標準化,あるいは国や地域単位の取り組みになるだろう(関連記事)。日本における「知的財産立国」の観点からは,国家的戦略として検討する価値はある。



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