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シャープが1998年に日経BP技術賞大賞を受賞した「反射型TFTカラー液晶ディスプレイ」は,1990年に東北大学と共同研究を開始したものである。表示色数は92年に4色,95年に8色,96年に512色,97年に26万色と増やすとともに,コントラスト比を順次高め,98年には反射型TFT液晶の量産を,さらに99年には半透過型カラーTFT液晶の量産を開始した。この「反射型TFTカラー液晶ディスプレイ」を含め,中小型の液晶ディスプレイ事業で,現在も強さを保っている。 この事業の成功の鍵を握る大きな要因は,特許やノウハウなどの知的財産を,戦略的に構築・活用してきたことにある。研究開発に着手した1990年代から現在に至るまで,競合他社の参入を防ぐ高い障壁を築くために,戦略的に特許網を構築し,ノウハウを守ってきた。 中小型液晶事業の知財戦略はシャープの成功例 しかし,実際には,シャープが他社に特許使用を許諾した事実は全くないにもかかわらず,他社がこの分野の製品を提供している。シャープは,これを容認しているということではない。現時点では,中小型の液晶に対するグローバルな旺盛な需要に対して,シャープ1社だけで応じることができないため,他社の行動も市場拡大という観点では一定の意義があると判断しているだけだ。適切なタイミングで,ライセンス使用料を請求することも考えている。 中小型の液晶事業の知財戦略は,シャープの大きな成功例としたい,そしてこれをシャープの他の事業にも適用,波及させることができればよいと考えている。もちろん,液晶ディスプレイの事業戦略にとっては,今後,知財戦略はますます重要になる。 「開発技術力」と「特許技術力」が2本柱 シャープの液晶事業での技術力は,「開発技術力」と「特許技術力」の2本柱で強さを出そうとしている。製造業が開発技術力を磨こうとするのは普通だと思う。ただし,これに加えて,シャープでは,例えば特許の権利範囲の書き方や出し方などといった,特許実務のテクニックも重要な技術と位置付けている。 そのために,シャープの液晶技術部隊には,通常の技術開発陣とは別に,「特許戦略グループ」という数十人の組織を設置している。この組織の中には,数人の社内弁理士も抱えている。私は,技術開発陣と特許戦略グループの両方から報告を受け,技術開発と特許戦略が有機的に連動するように指示を出している。「こんな技術を開発できそうだ」という話が来れば,「その技術を特許として権利化するには,このように申請したほうがよい」という話がすぐにできる,そんな環境を作っている。 この液晶技術部隊にある知財組織は,本社の知財部隊とは別の組織である。これには理由がある。シャープが集中しているのは液晶事業であり,コア技術は液晶技術だ。コア技術は知財と密接に連動させて競争優位を獲得すべきだとの思いから,本社の知財部隊とはあえて別に,コア技術の知財を専門に見る組織を置いたものだ。むろん,この組織は本社の知財部隊と密接に連携させている。 「“協創”と競争」で事業を成功に導く 事業を成功させる上で,「協調と競争」が大切だと言われる。例えば,ある種の技術を標準化させるためには,仲間作りのために,一定の範囲で知財を開示する必要がある。ただし,仲間作りのために,重要な知財を公開し,競争力を失ってしまっては元も子もない。非競争ポイントと競争ポイントを分け,開示範囲は非競争的範囲に限定する必要があるだろう。私は「協調と競争」ではなく,「協創と競争」が大切だと言うことにしている。「創造」するための「協力」という意味で,「協創」という漢字を使うのだ。 これまで,日本は海外への技術移転に対してルーズだった。製造装置やノウハウを含む知財を,海外に対して,寛容に開示し過ぎたように思う。米国の特許レポートを見ると,液晶分野の特許の約90%は日本が持っている(関連記事「特許登録の多い技術分野から各社の強さを推察 ― 産業競争力を強化する知財政策−6」を参照)。にもかかわらず,事業の売上高規模で見ると,海外が日本を上回っている。これは何かが間違っているとしか言いようがない。 (村中敏彦=日経BP知財Awareness編集委員)
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