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島津製作所・知的財産部部長 大谷文彦氏インタビュー(下)
職務発明:技術を大事にする社内意識の醸成が肝要だ
[2005/05/13]

島津製作所・知的財産部部長 大谷文彦氏 「『スーパー特許報奨制度』など,発明へのインセンティブを引き出す工夫を最大限に施している」。島津製作所・知的財産部部長の大谷文彦氏は同社の職務発明に関する社内規程についてこう言い切る。同社の社内規程は2003年10月に大幅に改定され,以来,数多くの企業が注目してきた。 「技術の島津」は発明をどのような観点から評価し,発明者に報いているのか。さらにノーベル賞を受賞した同社の田中耕一氏に対してはどのように対応したのか。連載の最終回である今回は,島津製作所における職務発明規程の概要とともに,企業が技術者に対して持つべき姿勢を,大谷氏に聞いた。
(まとめは河井貴之=日経BP知財Awareness編集)


2003年10月に職務発明規程を大幅に改定
 当社は,2003年10月に職務発明規程の大幅な改定を実施し,発明の対価である補償金額についても大幅に見直した。当社の場合,出願を決定した発明考案に対する対価支払いについて,出願補償,登録補償,実績補償,の3段階で実施している。改定の主な目的は,(1)研究者・技術者のインセンティブの向上に基づく研究開発の活性化,(2)クロスライセンスや海外製造子会社への実施許諾などを反映した時代に即した補償制度の実現,だった。
 2005年4月に施行された特許法35条の改正に際して,(a)協議の状況,(b)開示の状況,(c)意見の聴取の状況に求められる要件,については,2003年の改定で基本的に満たしていると判断した。そのため,新たな取り組みは,従来から実施してきた発明の対価(出願補償金,実績補償金)に対する異議申立てを社内の職務発明規程の中に明文化したことなどに止まった。

「ノウハウ」も評価対象に含めて発明マインドを喚起
 出願補償金は,1件あたり1万円である。社内の「発明考案届出書」がそのまま出願明細書として利用できるものや,考案内容が基本的あるいは画期的と認定されたものに対しては,1件あたり2万円としている。
 出願せずにノウハウとして保有するものも,出願補償に準じて1万円を支払っている。最近は戦略的に特許出願しない場合があるため,こうしたケースへの対応としてもノウハウへの評価は必要かつ重要である。
 登録補償金は,特許1件あたり5,000円,実用新案が1件あたり3,000円,意匠が1件あたり2,000円,と設定している。この金額は2003年の改定では変更していない。当社では,「会社の売り上げに寄与した後に補償する」という基本姿勢を採用しているからだ。

無償のクロスライセンス特許にも実績補償相当額を支給
 実績補償金は,毎年1回,(ア)登録特許で自社製品に実施されて業績に貢献したもの,(イ)実施権の許諾を行い実施料(ライセンス収入)があったもの,について発明者に支給する。ノウハウについても,会社業績に貢献したと認められるものには実績補償金に相当する額を支給している。
 第1回目(登録された最初の年)の実績補償では,過去の売上分をすべて計算して補償金の額を算出する。実績補償金の額は,評価額によって15段階の等級に区分しており,各等級で定額になっている。評価額は,製品の年間売上高,粗利率,製品に対するその特許の寄与割合(部分率,貢献度),といった要素を基準にして算出する。
 事業展開上,無償のクロスライセンスを実施することがある。こうした場合は,対象製品売上高の3%を実施料とみなして,実績補償金に相当する額を算定している。これは,特許戦略上,クロスライセンスの対象となる特許の増加を促し,加えて,特許侵害が発生した場合に契約交渉を有利に進めることを狙った仕組みである。
 なお,日本出願した特許を基に海外出願した特許に関する出願・実績補償については,現在実施していないが,今後の課題として検討している。

上限額のない「スーパー特許報奨制度」
 当社はインセンティブの1つとして,前年度に出願した特許の中で優れた内容の発明に対して,あるいは前年度に多数の発明考案を届出た者に,「技術研究担当表彰」を以前から実施してきた。
 2003年の規程改定に際して,新たに「スーパー特許報奨制度」を加えた。これは,基本発明を実施している製品群の年間売上額が100億円以上を達成したときに,最低額を1,000万円,上限は定めない特許報奨金を1回限りで支給する制度である。この報奨金は,実績補償金と同時に受け取ることができる。
 スーパー特許報奨制度の目的は,研究者・技術者のインセンティブの向上にあり,「発明の対価」を手厚くした部分に相当する。報奨金の額は,社長決裁である。

新しい人事制度として「フェロー制度」を2001年に導入
 職務発明と直接的な関係はないが,当社では2001年に人事制度を拡充して,「フェローシップ制度」を導入した。高度の専門的能力・見識をベースに事業活動に貢献する者を任命する制度であり,専門を極める技術者を尊重し,その活動をバックアップするものである。
 2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一(当時,分析計測事業部の研究員)も,フェローに就任した。田中は,2003年1月に社内に新設された「田中耕一記念質量分析研究所」の所長に就任したが,現在も,製品の事業化と研究開発・営業活動に一緒に取り組むスタッフとの連携を重視している(関連記事)。企業として,こうした研究者・技術者の姿勢を尊重できるような制度作りや運営を継続しなくてはならない,と感じている。


 島津製作所内に設立された田中耕一記念質量分析研究所。開設に際して,田中耕一氏は「私は何といっても技術者です。装置を触っていて,それで初めて新しいアイデアが浮かぶ。その時間がなくなったら枯れてしまいます」と語った(写真提供:島津製作所)。

「良い発明した技術者を素直に称えられる環境が重要だ」
 日本の企業は,社員のモラル(士気)や調和を重視する。そのため,一部の発明者に対して極端な優遇を行うことは考えにくい。しかし,優れた特許を生み出すことを奨励して,実際に売り上げやライセンス収入に貢献した技術者に対しては,高い評価を与える方向に進むのではないだろうか。技術者の側も,納得できる特許報奨制度,自分を評価する制度を求める傾向が強まるだろう。知財戦略と企業規模,さらに経済情勢や職務発明訴訟の動向を考慮して,今後も社内の制度を改良していくことは重要である。
 だが,制度はあくまで基本的な枠組みである。最も大切なことは,良い発明を創出した技術者を「優れた技術者」として素直に称えるような,「技術者を大事にする」社内の意識や雰囲気を醸成する努力の継続だと考えている。こうした姿勢こそが「島津マインド」の本質であり,島津製作所にとってかけがえのない「財産」であるからだ。


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