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【シリーズ】先進企業の知財戦略(6) 中国知財戦略に潜むリスクと専門人材育成の必要性 東芝ソリューション・技術企画部(下) [2005/09/07]
知財先進企業で新しい潮流が胎動し始めた。これまでビジネスのバックラインを支えているイメージが強かった知財部門が,ビジネスのトップラインをけん引するようになってきたのである。ビジネス創造段階からリスクに対するガバナンスを利かせ,ビジネス・リスクを最小限に留めることが可能になる。このような方向性で進化し始めた知財部門の典型例として,東芝ソリューション・技術企画部・知財担当の活動と,同部長の菊地 修氏を紹介する。連載の第3回は,知財戦略上で不可欠なリスク管理と,基盤となる専門人材育成の必要性,を聞いた。 (聞き手は久保田茂夫=日経BP知財Awareness編集委員) 顧客と事業を守る知財リスク管理の徹底 当社は,組織運営上の知財戦略として「知財活動目標管理制度」を実施している。全社レベルの知財方針に基づき,各事業部が新しい事業創造テーマと知財活動計画を毎期策定した上で,その計画の遂行を事業部の技術責任者が毎月評価し,指導する制度である。同制度を通じて組織力の強化,人材育成,自部門の知財力評価を実行する。 同様に,各事業の遂行過程,製造工程の中に「知的財産レビュー制度」を組み込んでいる。この制度は,各事業の企画段階,実行段階,検証段階で,フェーズごとに対応した契約交渉・分析や権利調査,TRIZ(発明的問題解決)手法を活用したアイデア発掘などを確認する。特に知財リスクの排除に注力しており,著作権侵害の防止や秘密情報管理のための体制確立,事業活動を通じた当社の権利の有効活用などを,事業部門と知財部門が一体となってチェックしている。こうしたレビュー作業は,顧客に対して果たすべき社会的責任の観点からも重要であり,原則としてすべての提供サービス,出荷製品において実施する。 中国進出が著しいIT業界と知財戦略の重要性 IT(情報技術)業界の最新動向として,ソフトウエアの開発拠点のみならず市場としての中国の重要性が飛躍的に高まっている。当社の事業展開に占める中国の重要度も増大し,当社の技術を中国企業に提供して開発を委託する場合,自社製品を中国市場で中国企業を通じて販売する場合が増えている。こうした事業展開においても知財リスク管理は必須であり,われわれは中国における知財活動を積極的に推進している。 目下の課題は,中国企業との契約戦略とそれを裏付ける知財権の確立である。一般に,中国企業とのアライアンス契約では,ノウハウなどの秘密情報だけに関して締結すると中国政府の認可が得にくかったり,対価条件の見直しを要求されたりする場合が多い。加えて,アライアンス契約を通じて中国企業に守秘義務を課しても,その企業の従業員が退社してその秘密情報やノウハウを流用して事業を開始したなどの場合は,その新たに設立された事業会社に対して,当社が直接契約責任を追及することが困難である。このような状況においても中国で有効な知財権を保有していれば,その排他権に基づいたライセンス契約交渉が可能になり,また不正な事業を行った第三者に対して,不法行為責任を直接追求できる。 中国出願の「言語リスク」の排除では翻訳専門人材の育成が急務 中国知財戦略の大局的な展開としては,(1)「人財」の育成と,(2)中国での係争にも勝つことできるような「強い」知財権の確保,を目指している。 人材育成では,日本と中国における知財の権利化と訴訟実務に精通した中国弁護士が,日本法と中国法の比較法分析による中国特許出願戦略を,各案件単位で当社の知財担当者に直接指導している。 知財権の確保では,中国人が自然に理解できる中国語を使った特許出願明細書の作成を具体的な目標としている。中国語は日本語と英語の中間的な文法体系といわれる。日本語に存在する語彙(専門用語)が中国語には存在しなかったり,表記的には同じ語彙でも,まったく別の意味・用法で使われたりすることがある。当社では,早稲田大学中国語教育総合研究所(WEIC)の支援を得て内容確認の強化に努めている。第1に,同研究所の日中比較言語学の専門家が当社の発明者や知財担当者と打ち合せて,日本における出願,つまり日本語による明細書の意図を十分に理解し,その意図を反映しつつ簡潔にまとめた日本語文書を作成する。次に,この文書を当社の知財担当者などと再度検討して確認した上で,中国語への翻訳を実施する。このような綿密な工程を経ることで単純な誤訳だけでなく,日中間の文化や言語用法の相違に基づく誤認識,意味の解釈のずれを排除している。 これは,特許,商標,意匠の出願,さらに契約実務においても該当する。中国においてアライアンスや係争を前提として中国語に翻訳した文書を中国人に提示する場合は,その文書の内容が日本人の意図している内容を反映し,合致していることが大前提である。例えば,訴訟を提起した場合に合致していないことが判明した場合,深刻なリスクが発生するおそれがある。われわれも,こうした危機感を常に持って対応している。 今後の方針として,当社は特許に関する中国語に精通した専門人材の育成を掲げている。2005年は,WEICの専門家を招いて当社社内で「読める特許中国語講座」を開設している。この講座は全知財担当者を対象としており,特許や技術に関する専門用語の日中対照辞書,日中比較言語学に基づいた中国語文法体系の研修を実施している。 事業の知財武装化を目指し,エンジニアに特化した知財教育を実施 事業の知財武装化を進める上で,最終的な課題は,やはり「人財」である。当社は,経営上の最重点項目(トップ・チャレンジ)として「人材育成」を掲げており,「知の源泉」となるエンジニアの育成に特に力を入れている。約3,500名のエンジニアに対しては「ITスペシャリスト」の育成など専門性の向上を目指し,経済産業省が策定した「ITスキル標準(ITSS)」に基づき各分野で必要なスキルとレベルを区分した上,当社独自のスキル認定制度を整備している。 知財も大切な教育テーマであり,エンジニアのみならず全社員に対して知財基礎知識やリスク管理,知財戦略に関する教育を,eラーニングや研修制度などを通じて実施している。さらに,知財実務知識の修得を積極的に薦めるため,「知的財産検定」の受検を2005年度から奨励している。同検定の2級認定を受けた者に対しては,報奨金を授与する。知的財産検定は業界の標準的な実務知識に準じており,自己の能力,学習の到達度や弱点などを客観的に把握できることから,知財教育において大きなインセンティヴになることを期待する。 |
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