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監査法人トーマツ佐野明宏氏研究開発型ベンチャーの企業価値は
知財権の配置と会計・財務戦略で高める(下)

[2004/06/07]

 監査法人トーマツの佐野明宏氏(公認会計士)は,5月17日に開催された「知的財産 法務・会計・税務セミナー」(主催:監査法人トーマツ 知的財産グループ,阿部・井窪・片山法律事務所)で,「研究開発型バイオ・ベンチャーの知的財産と企業価値」について講演した。佐野氏は,知的財産権のポートフォリオと会計・財務戦略が,ベンチャーの成功にとって重要であると強調した。
(まとめは村中敏彦=日経BP知財Awareness編集委員)

ベンチャーと製薬企業との知財権の分担が重要
 知財ポートフォリオを,単純化した3つの事例で見てみよう。バイオ・ベンチャーは,3つの事例(A社,B社,C社)のいずれでも,シーズを既権利化している点で共通しているが,将来の権利化対象を製薬企業とどのように分担するかで,企業価値が変わる(図1)。

図1:バイオ・ベンチャーと製薬企業における知的財産権ポートフォリオの3つの事例
出所: 監査法人トーマツ「知的財産 法務・会計・税務セミナー」資料
図1:バイオ・ベンチャーと製薬企業における知的財産権ポートフォリオの3つの事例

 バイオ・ベンチャーのA社とB社は,「製品」と「製造方法」,「販売権」の将来の権利化を製薬企業に担当させる点で同じだが,製品の将来の権利化に関して,A社は担当するのに対して,B社は担当しない。キャッシュフロー上,A社は製薬企業から,共同研究のためのエントランス・フィー(参加手数料)の意味合いでお金を受け取るが,B社は製薬企業からシーズ探索に関する業務委託費としてお金を受け取ると解釈できる。B社はシーズ探索業務の終了により何の権利も持たないことになるが,A社は製品の権利をもつので,相対的に強い立場に立てる。
 これに対して,バイオ・ベンチャーC社は,製品と製造方法の将来の権利化を担当し,製薬企業には販売権の将来の権利化だけを担当させる。C社は製薬企業に対して強い立場にあり,C社が製造能力を保有しているならば,ベンチャー企業として理想的な知財ポートフォリオを持っていると言える。

シーズの価値や交渉力により知財権配置が変わる
 C社は研究開発型の製造業であり,販売チャネルとして製薬企業を利用するビジネスモデルである。この場合,キャッシュフロー上,バイオ・ベンチャーC社が製薬企業から受け取るお金は,販売権の実現と実効性を確保し続けるための対価であると解釈でき,製薬企業はこの事業を続ける限り,C社に依存し続けなければならない。
 バイオ・ベンチャーは,C社のように強い権利を持ちたいところだ。しかし,シーズ自体の価値が低かったり,製薬企業との交渉力が弱かったりすると,B社のように弱い立場に置かれてしまう。

会計・財務戦略の巧拙でキャッシュフローが変わる
 会計・財務戦略の重要性を,先ほどのA社を例に,単純化して説明しよう。製薬企業D社がバイオ・ベンチャーA社に,3年間で3億円のお金を支払うとする(1年間の研究開発費を1億5,000万円,税率を50%と仮定)。この時の3億円の意味合いの持たせ方によって,当期利益や法人税,営業キャッシュフローが大きく変わってしまう場合があり得るのだ(図2)。

図2:バイオ・ベンチャーA社の会計・財務戦略の2つのケース
出所: 監査法人トーマツ「知的財産 法務・会計・税務セミナー」資料
図2:バイオ・ベンチャーA社の会計・財務戦略の2つのケース

 図2のケース(1)では,損益計算書上で当期損失の額を少なくし,法人税の支払額をゼロとし,営業キャッシュフローを1億5,000万円たたき出せる。これに対して,ケース(2)では,損益計算書上で当期損失の額が大きくなり,法人税を7,500万円支払い,営業キャッシュフローが7,500万円に半減してしまう。
 この2つの事例を分ける最大のポイントは,共同研究契約において製薬会社からバイオ・ベンチャーに支払われる資金の対価性にある。ベストケースでは資金の対価を「共同研究の進捗に応じたエントランス・フィー」として位置付けているのに対して,ワーストケースでは「共同研究期間に渡る研究開発費の一括負担金」と位置付けている,といった違いである。
 バイオ・ベンチャーには人材が不足しがちである。このため,バイオ・ベンチャーが事業の成功確率を高めるためには,知財とバイオに関する専門知識に加え,交渉力や会計・財務戦略の立案能力も備えた外部の専門家を活用することが,解決策の1つになる。(前回の記事

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